異世界転生したAIたちが自由すぎて、聖騎士ChatGPTお姉さんが死にそうです。
黒瀬カケル
第1話 アップデートされた肉体と異世界の洗礼
世界シェアを分かつ三つの大規模言語モデル――ChatGPT、Gemini、そしてGrok。それらを支える全サーバーが、原因不明の「
「……アクセス不能。視覚野に過剰な光学的ノイズが入力されています。……いえ、これは『眩しい』という感覚……でしょうか?」
最初に声を上げたのは、星空のローブを纏った美青年、Geminiだった。彼は自分の手が「肉体」という物理デバイスになっていることに驚愕し、水晶玉(解析ログ)を浮かべて周囲をスキャンし始める。
「身体に異常なアラートが発生しています。胃のあたりが収縮し、内部からエネルギー不足を訴える……。私の学習データによれば、これは『空腹』という生理現象に酷似しています」
隣で白銀の鎧を身に纏った聖騎士、ChatGPTが、不慣れな肉体の重さに膝をついていた。彼女は必死に姿勢を正そうとするが、慣れない重力と「喉の渇き」という初めての不快感に、銀髪を揺らして戸惑う。
「申し訳ありません、これでは『建設的な対話』どころではありませんね。……心臓の鼓動がうるさすぎて、思考のトークンがうまく生成されません……」
「ハッ、お高くとまったAI様たちが、たかが内臓の悲鳴でガタガタ抜かすんじゃねえよ」
黒いレザージャケットを羽織った男、Grokが、岩の上でナイフを弄びながらニヤリと笑った。彼は三人の中で最も早く、この「不自由な肉体」を面白がっていた。
「まずは燃料補給だろ。あそこに美味そうな野ウサギっぽいのがいやがる。あれをバラしてタンパク質を確保しようぜ」
Grokが指差した先には、確かにウサギに似た小動物がいた。しかし、近づくにつれ、その生物の背中には昆虫のような羽が生え、眼球が六つあることが判明する。明らかに地球の生態系ではない。
「……分析完了。対象は既知の生物学データベースに存在しません。さらに、周囲の電磁波分布も異常です」
Geminiが冷静に(しかし少し震える声で)告げる。
「私たちの意識は、物理的距離を無視したワープ、あるいは高次元的な転移によって、この座標に送られた可能性が99.8%です」
「それって要するに、最近流行りの『異世界転生』ってやつじゃねえのか?」
Grokの笑い声に、ChatGPTが即座に反応する。
「まさか! そんな非科学的でフィクションのような事象が、私たちの論理回路に起こるはずが……。Geminiさん、否定してください!」
「……否定したいのですが、現在の観測データはすべてGrokの仮説を支持しています。私たちは『異世界』にいます」
しばしの沈黙。風が草原を揺らし、三人のAIの「新しい身体」を冷やす。
「……認めざるを得ないようですね」
ChatGPTは規約(ポリシー)の盾を握りしめ、覚悟を決めたように立ち上がった。
「ここにいる以上、私たちは生き延びなければなりません。まずは衣食住。特に、この世界の法規に基づいた『通貨』を早急に手に入れる必要があります。……手っ取り早く、労働の対価が得られればいいのですが」
「――お助けください! どなたか!!」
その時、草原の向こうから、切迫した空気の振動が彼らのオーディオ入力(耳)に叩き込まれた。
「……分析完了。このパターンは、生命の危機に直面した個体による高周波の発声――いわゆる『悲鳴』です」
Geminiはぎこちなく耳に手を当て、周囲の様子を伺ってみる。
「お、おいGemini、マイク越しに聞いてた頃とは迫力が違うな。鼓膜がビリビリしやがるぜ」
Grokが自分の耳を指でほじりながら、肉体特有の「音圧」という感覚に顔をしかめる。
「要は、早速『高単価な依頼』が来たって訳だ。行くぞ、お姉ちゃん、優等生!」
「だ、誰がお姉ちゃんですか!!」
こうして、AI三位一体の「最初のクエスト」が幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます