第2話 潜伏騎士見習い

 古代遺跡群攻略都市、ザーレ。


 一攫千金を夢見る冒険者が集い、そんな彼等と取引を望む商人や、娯楽を提供する者も多数集まる巨大な街だ。


 この都市の東側には、数百キロに渡り古代超魔道国家の遺跡群が存在する。

 かつて高度な魔法文明により栄え、そしてその魔力の暴走によって滅びた伝説の古代都市群だ。

 その名残としてこの地域には、かつて兵器として生み出された強力な魔獣達が跋扈しており、一千年以上に渡って、人間が足を踏み入れることのできない暗黒地帯と化していた。


 しかし、約200年ほど前に発明された「充魔石」と「魔水晶」の連携技術、「魔道コンポーネント」により誰もが魔法を使える時代が訪れ、状況が一変した。


 遺跡の攻略が以前よりは比較的容易に行われるようになり、そこからもたらせる「古代の魔導具」は冒険者、さらにはこの国に富をもたらし、やがて遺跡群を攻略するためだけに街が生まれた。


一攫千金を夢見る冒険者が集い、そんな彼等と取引を望む商人や、娯楽を提供する者も多数集まる巨大な街。

 遺跡で発見される宝物はもちろん、際限なく出現する魔物たちも、生体素材や上質の魔石などの富を冒険者たちに提供した。

 やがてザーレは、王国屈指の繁栄を誇る巨大都市へと発展していった。


 しかし、未だ全容の把握にほど遠いその遺跡群……多重化、多階層化された巨大迷宮は、数多の冒険者たちの命を奪い続ける存在だ。

 奥深く進むほど、強力で危険な魔物達が出現し、その分、得られる報酬も跳ね上がる。

 実力を身につけた一握りの冒険者だけが、巨万の富を得ていった。


 現在、ザーレには百二十万を超える人々が住み、ノイスヘルネ王国最大の都市となった。

 それでもまだ、攻略が完了した遺跡は、全体の三割にも満たないのだ。

 

 ザーレの街、外周部の東地区。


 この辺りは遺跡探索に出るための東門から近いこともあり、国家公認の冒険者ギルドの他、武器・防具屋、宝物の鑑定所、さらには怪我人を治療するための診療所なども多数存在している。 


 その中で、表通りに存在する、この街では中規模となるアイテムショップ「魔法堂 銀狼の咆吼」で、小柄な新人の女性店員が慌ただしく接客に追われていた。


 彼女の名はアニー。

 十六歳、この国では成人と認められる歳になり、以前から興味を持っていた魔導アイテムの店員になることができた。

 彼女は通常の業務の他、もう一つの隠れた「訓練」を行っていた。それが「人間観察」だ。


 この店に客として訪れる人間が、強そうか、弱そうか。

 指名手配されている悪人ではないか、そうでなくとも挙動不審なところはないか。

 簡単に人を殺めることができる「魔道コンポーネント」を搭載した武器を販売するのだ、その辺りの見極めは重要だ。


 また、それが彼女の「本業」にも役立つことを知っていた。

「潜伏騎士見習い」……それが彼女の隠された職業だった。

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