異世界エンジニアのクラフト村づくり 〜猫耳美少女と設計図で挑む、ガチ中世生存戦略〜
@clubman18
第1話《不気味な森と三つの道》
1. 藍色の空と乾いた喉
目を開けた瞬間、空の色が違うと分かった 。
灰とも藍ともつかない色をした空 。耳に届くのは、聞いたこともない虫の声だ 。立ち上がると、周囲は見たこともない木々が立ち並ぶ深い森だった 。
「……は? ここ、どこだ……?」
最後の記憶は、夜の帰り道に自転車を漕いでいたこと 。都内の中小メーカーで機械設計の図面修正と打ち合わせに追われ、一週間ぶりの終電帰りだったはずだ 。
(さっきまで夜道を走ってたのに。一晩、どこかで気絶してたのか……?)
喉が、焼けるように乾いていた 。ふらふらと歩き回って見つけた小さな沢の水は、驚くほど澄んでいて旨かった 。
「……なんだこれ。天然水どころの話じゃない」
少しだけ意識がはっきりする 。だが、周囲に人の気配は全くなかった 。太陽はゆっくりと傾き、森の奥に黒い壁のような暗がりが増えていく 。
2. 闇の中の『温もり』
焦りだけが募る中、幹の途中が大きく空洞になった木を見つけた 。
「……ここしか、ないか」
枝や落ち葉をどけて、体を縮めて潜り込む 。木の内側はひんやりとしていたが、外の風にさらされるよりはマシだった 。
震えながら丸まっていた時、手が何かに触れた 。
(……なんだ、これ。木の枝……か?)
そっと手を開いてみると、細長い木の棒だった 。人の背丈より少し短いくらいで、先端には灰色の石のようなものが埋め込まれている 。
「こんなの、いつ拾ったんだ……?」
記憶をどれだけ巻き戻しても、全く心当たりがない 。ただ、手の中のそれは、妙に温かかった 。冬の日だまりに手をかざしたときのような、あるいは使い捨てカイロのような、柔らかい温度だ。
(……生き物の体温じゃない。かといって、直射日光で温まったにしては夜になっても冷めなさすぎる。この石の『比熱』がおかしいのか? それとも、内部に何か熱源があるのか……?)
職業病だろう 。暗闇の恐怖から逃げるように、私は頭の中で無理やり理論を組み立てようとした。手探りで棒を調べても、スイッチも配線も、バッテリーらしき継ぎ目も見当たらない 。
(……わけがわからない。けど、この際なんでもいい。……今は、これがないと凍えそうだ)
棒を胸に抱き寄せると、強張っていた筋肉がわずかに緩む 。 結局その夜は、合理的な答えも見つからないまま、ただ泥のような眠りに落ちていった 。
3. 「おみくじ」と腹痛
夜が明けた 。体は痛み、お腹が内側から自分を食べているような空腹感に襲われた 。
ふらふらと森を歩いていると、どこかで見覚えのある丸い果実が目に入った 。形は柿に似ている 。赤くふくよかで、香りは甘い 。
「……いけるか? いや、念のため」
おもむろに、例の棒を地面に立ててみたくなった 。
(……昔、試験で本当に分からない問題があった時、鉛筆を転がして決めたっけな)
「じゃあ今回も、“神頼み”ってことで」
棒を、果実の木とその向こうの道の間に立てる 。手を離すと、棒はふらふらと揺れ――果実ではない方向を指して倒れた 。
「……そっち?」
一瞬だけ迷う 。だが、目の前には熟れた甘い匂いの果実がある 。
「……まあ、気のせいだろ。ただの棒だしな」
私は棒を拾い直し、結局、果実を選んだ 。 一口かじると、驚くほど甘い 。気づけば、夢中で貪っていた 。空腹が、判断力を簡単に裏切ったのだ 。
――数時間後。腹が、ねじ切れるように痛んだ 。
「……っ、ぐ……あ……!」
地面に倒れ込み、冷や汗が噴き出す 。
(ああ……やった。やらかした)
異世界の(としか思えない場所の)果実を、見た目だけで選んだ自分の浅はかさを呪った 。棒がさしていた方向は、果実ではなかったのだ 。
(あれ、もしかして「やめとけ」ってサインだったのか……?)
4. 三叉路の決断
半日ほど朦朧としていたが、夕方になる頃、腹痛は少しずつ治まっていった 。
「……助かった……のか」
ゆっくりと体を起こす 。足は震え、視界はまだ揺れているが、ここに座り込んでいたら死ぬだけだと分かっていた 。
棒を杖代わりに突きながら進むと、道が三本に分かれていた 。
左の道は茂みが濃くて暗い 。 真ん中の道は明るいが、踏まれた形跡がない 。 右の道は草が踏まれているが、どこか嫌な雰囲気がある 。
(どれも……分からない)
そこで、自然に手が動いた。例の棒を、また立ててみたくなった 。
「……頼むぞ、今度こそ」
三つの道の真ん中に棒を立て、そっと手を離す 。棒はふらふらと揺れ、ゆっくり、ゆっくりと傾いていく 。
そして――右の道へ、倒れた 。
(……右、か)
科学的根拠はゼロだ 。でも、他に当てにできるものもない 。
「さっきの果実の件もあるしな……。今度は、ちゃんと従うか」
私は倒れた棒を拾い上げ、右の道へと進み始めた 。
棒を選んだのも、棒に従うと決めたのも、自分だ 。その選択ごと抱え込んで、前へ進むしかなかった 。
夜が、ゆっくりと近づいていた
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