吾輩は猫又である〜探偵編〜

@hachio_haru

#1

吾輩は猫又である。名前は死ぬほどある。

行きつけの魚屋では「タマ」と呼ばれ、公園を歩けばガキンチョたちが「ミー」と呼んでくる。少女の家族からは「きなこ」と呼ばれ、おじいさんからは「シロ」と呼ばれる。


吾輩は今、ベルベットの艶をまとった漆黒の毛並みだ。

人間たちは「クロ」と呼んでくるだろう。

なんとも安易な考え方だ。

インテリジェンスな頭脳の持ち主である吾輩には、もっとエレガントな名前で呼んでもらいたいものである。


今日もまた猫の平和を守るため、パトロールに勤しんでいる。

吾輩があざと可愛く

「ニャー」

と鳴けば、人間は貢物を差し出してくる。


(次は何を食べようかな)


と、鼻歌混じりに歩いていると――


「ピギャーッ!!」


と、悲痛な叫び声が聞こえた。


声のした方へ急いで向かう。

そこには、耳から血を流した鯖猫が、壁まで追い詰められ、小さく丸まって震えていた。

その目の前には、手に棒を持ったガキンチョが立っている。


全身の毛が逆立つ。

ガキンチョの目は狐のように釣り上がり、目玉は黒く、光を吸い込むだけで放ってはいなかった。

表情がなかったのが、せめてもの救いだ。楽しんでいるようには見えない。


吾輩のポリシーには反するが、身を隠してから、

「何をしている!」

と、人語で叫んだ。


ハッとなったガキンチョは棒を捨て、走り去った。


それから、何度か同じような光景が続いた。

町中に、猫たちの不安と悲しみの声が響いている。


(人間はいったい、何をしているんだ)


「イタッ!」


背中に衝撃を受け、吾輩は一メートルほど跳び上がった。


辺りを見回すと、以前棒を持っていたガキンチョが、手に石を持ち、振りかぶっているところだった。


どうやら、石を投げつけられたらしい。

第二弾が来る前に、脱兎のごとくその場を離れる。


「ゆ、許せん!

吾輩のこの美しく柔らかな毛並みに、石を投げつけるとは!

吾輩を敵に回したことを、後悔させてやる。」


どうせやるなら、そいつが一番後悔するやり方にしてやろう。

そう考え、吾輩はガキンチョに対する徹底的な調査を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る