売れない漫才師、異世界三年目
@hyt9648
楽屋
「さっきのアドリブ本ネタに入れよか」
「ほんまに?ウケ微妙やったで」
とある演芸場の控室で二人の中年男性が着替えながら話している。
「エルフと獣人は反応あったよ。短いしテンポいいから邪魔にならんし」
「了解。台本に入れとくわ。…なんでこっちの世界の紙こんな高いねん」
「自分で広めたらええやん」
「作り方知らんし。お前やれや」
「俺も作り方知らんわ」
はぁ…二人同時にため息を付く。
売れない漫才コンビがひょんな事から異世界に転移して早3年。
こっちの世界でも二人は漫才で生計を立てていた。
「そういや今度王城に呼ばれたやん」
「来週やっけ、憂鬱やわ」
「そう言うなや。で昨日お前おらん時に王城から偉いさん来て漫才の内容指定してきよった」
「俺聞いてへんぞ」
「今言うた。ネタ書かへんしええやろ」
「ええけど、どんな内容やったん?」
「王様さいこー!」
「やったぜ!さいてー!」
二人は同時に天を仰ぐ。
天井には電灯代わりの魔法陣が光り、暖炉でホットスライムがパチパチと燃えている。
「とりあえず作ったから一回合わそか」
「はいよ」
台本を渡された男がコホン咳払いしてのどを作る
「「はいどーもー」」
「やすでーす」
「けんでーす」
「「2人合わせてヤスケンでーす」」
声は笑顔、だが顔は無表情のまま進んでいく。
「僕たちは普段下町の酒場などで漫才という余興を行い生活をしています。」
「へぇー」
「漫才というのは僕たちの国の言葉でざっくりいうと、楽しいお喋りをして皆様に楽しんでもらうというものです」
「知らんかった」
「なんでお前知らんねん!」
初見の人の為に漫才の解説も慣れたものだ。
「という風に、相方のヤスがおかしな事を言うので、僕ケンが訂正していく、突っ込んでいくという劇でございます」
「喧嘩してる訳じゃないので安心してねー」
「なんでゆるーく見ていただければと思います。いうてやってますけど、僕たちもついにこんな大きい所から呼んでもらえるようになったんですねー」
「ほんまですねー。この広間だけでも僕の部屋の倍くらいありますわ。」
「嘘つけ!広すぎやろ!」
「でも兵士さんとかかっこいいですよね」
「確かにね。皆さんシュッとして男前ですよね」
「重そうな鎧着て重そうな剣持って…僕スプーン持つだけでも肘震えるのに」
「貧弱過ぎるやろ!鍛えてもらえ!」
ケンは深く息を吸い息を整える
「それに比べて王様は文武両道、民に愛され、
幼き頃より学問と武芸の双方に励まれ、
剣の鍛錬においては自らを律し、学問においては常に知を求め、
その姿勢は貴族のみならず、街に生きる民や辺境に暮らす者にまで広く知られております。」
「立派ですねー」
「戦時にあっては先頭に立ち国を守り、
平時においては玉座に安んじることなく、
民の声に耳を傾け、法を整え、秩序を保ち、
この国が今日まで大きな混乱なく続いてきたのも、
ひとえに王様の賢明なるご判断と、揺るぎない覚悟の賜物でございます。」
「人の上に立つ鏡ですね」
「また王様は強き者には驕ることなく、
弱き者には慈しみをもって接し、
種族や身分の違いを越えて手を差し伸べられ、
人間、獣人、エルフ、ドワーフ、すべての民が
等しくこの国に生きる存在であると示してこられました。」
「お優しい!」
「そのお姿は、まさにこの国の象徴であり、
剣と書を両手に携え、理と情を併せ持つ、
誰もが安心して背中を預けられる王様でございます。」
「長いわ!!!!」
「これ言え言われてん。一言一句」
「エグイー」
椅子にもたれかかりながら、遠い所を見つめヤスはつぶやく
「毎回うまく行きかけると貴族やらなんやらに呼び出されるよな」
「珍しいからやろ。」
「んで毎回無理言われんねん」
「まぁそれが俺ら下々の定めや」
「一回命令無視したらマジで殺されかけたし」
「まぁせやろな」
「言うこと聞いたら聞いたで毎回毎回今回みたいな感じでやらされるし」
「せやなぁ」
「逃げよか」
「4回目かぁ」
「旅しながら日銭稼いで暮らすのも悪ないやん」
「まぁなあ。盗賊怖いけど」
二人は手際よく片付けると控室を後にし、町でその後見かけた者はいなかった。
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10年後2人が漫才で人魔戦争を終わらせるのはまた別の話である。
売れない漫才師、異世界三年目 @hyt9648
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