自衛戦艦、出動す━The Beginning Story━

紫 和春

第1話 始まり

「高橋総理、国会答弁で『戦艦』発言」

━━202V年11月7日、毎晩新聞一面の見出しにて


 昨今の台湾有事における存立危機事態についての、総理による国会答弁である。

 この発言により、中国外務省が抗議文を発出するなど、国内外で大きな話題を呼んだ。

 しかし、現代軍事論においては、戦艦の存在理由はほぼ皆無に等しく、現実ではあり得ないという見方が強かった。

 この発言が飛び出すまでは。


「ポーカー米大統領、ポーカー級戦艦の建造を承認」

━━202V年12月23日、DNNニュース速報より


 軍事大国であるアメリカの、その大統領の口から飛び出た頓珍漢な発言だ。

 最初はポーカー大統領のいつもの虚言や戯言だと思われていた。しかし米国防総省━━彼が署名した大統領令によるならば戦争省だが━━は、ポーカー大統領の発言の数時間後にその詳細を発表する。

 レーザー兵器、レールガン、核ミサイル、極超音速滑空体などを搭載する予定だという。全長、動力、乗員数については発言がなかったが、それはまさに戦艦の名に恥じない威厳ある艦であった。

 その発言によって、世界は大きく揺れ動くことになった。

 まず同じく軍事大国である中国が、いつも日本にするようにアメリカをこき下ろす発言をする。

 続いてロシア。曖昧な発言になったがフルシチョフ・ルーチン大統領は「世界の平和に繋がることを期待する」と発言。

 さらに続いたのが北朝鮮。「その膨れ上がった権威はまさに肥え太った豚のようであり、私利私欲のためにこれまでアメリカという国家が積み上げてきた信用と経済をどぶ川に捨てる行為」と批判した。

 だが予想外の反応を見せたのは日本だった。それは次の通りである。


「我が国も最先端の技術を投入し、かつての栄光と繁栄を極めた戦艦という艦艇に希望を見出すことにした。ここに、護衛戦艦の建造を宣言する」


 とんでもない発言が飛び出した、とマスメディア各社やSNSは大騒ぎになった。

 こうして日米の戦艦建造競争が勃発したのである……。


━━


 とある狭い部屋の中。その男は、過去に配信されていた新聞をタブレットで眺めていた。

 すると、部屋の扉がノックされる。


「艦長、そろそろ時間です」

「おう、分かった」


 艦長と呼ばれた男は、タブレットを置いて帽子を手に取る。そしてそれを深々とかぶった。

 扉を出て、ノックをした士官と共にCICへと移動するため、狭く長い通路を歩く。


「艦長、何をされていたのですか?」

「なに、この艦が建造されるに至った経緯を確認していてな」

「そうでしたか。そう考えますと、この艦もなかなか数奇な人生……、いや、艦生を歩んでいるものですね」

「あぁ」


 そしてCICへと到着する。そこにいた自衛隊員らの敬礼を受け、艦長は敬礼を返す。そのまままっすぐ艦長席に座り、グルリと中を見渡す。もがみ型護衛艦で採用された360度のスクリーンが、CICの中を明るく照らしていた。


「装備の確認をしたい。残弾を読み上げてくれ」

「はっ。電磁砲2基2門、各門残弾120発。対艦ミサイル32発。対空ミサイル32発。対潜ミサイル32発。トマホーク32発。対艦誘導弾8発。光学レーザーシステム稼働良好。ファランクス2基残弾十分。短魚雷24発」

「その他システムのチェック」

「イージスシステム、正常。対潜システム、正常。トマホーク武器管制システム、正常。ユニコーン、正常。ガスタービンエンジン、正常。全機能問題なし」

「CICの操作も問題ないか?」

「万全の状態です」

「うむ。そして……、飯は食ったか?」

「必勝の握り飯をいただきました」

「そうか、分かった」


 そういって艦長は深く溜息をつき、前方に写し出された映像を見る。

 艦の右側には、流れ弾の弾道ミサイルを食らった与那国島。艦の前方にはアメリカ海兵隊を乗せた海軍の艦艇が多数。艦の後方には、同じ第1護衛隊群及び補給艦の「はまな」と「おうみ」。そして自衛隊海上輸送群の艦艇が数隻。


「それで、米国の戦艦はまだ完成していないのか?」

「はい。現在日本のみならず、韓国、ドイツ、フランス、イギリスから作業員を動員して艤装の設置にあたっていますが、完成は最短で2ヶ月先と言われています」

「こういう時のために戦艦を作ったのではないかねぇ……。まぁ、その分この艦が頑張るしかないか」


 艦長は覚悟を決め、自衛官たちに呼びかける。


「これより、護衛戦艦『やまと』は発生した台湾有事の収束に向けて行動する。無傷で帰ることは出来ないだろうが、総員、最善の行動を取るように。以上!」

「「はっ!」」


 203V年、台湾有事。台湾海峡及び周辺海域で勃発した中国による大規模軍事行動は、苛烈を極めることとなる。

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