二年四月

「部長、もう昭和じゃないんですよ」

 いつの間にか周囲に馴染んだ僕は、広報部部長を単に部長と呼んでいた。

「げげげ、でもなぜか男子学生からはこの書き方が人気でさぁ。いやぁ、牧野もちょちょーっと言ったら書けちゃうんだもんな。それに取材も、すでに完璧」

「そうですかぁ? 飛鳥井あすかいさん、僕とは正反対の道を進んでいきそうです」

「だからいいんじゃない。それに、飛鳥井って牧野と同学年だぞ?」

「えっ。頭良さそう」

「なんでだよ。この学校に入学できた時点で全員頭いいんだよ。牧野だってな。写真は撮らないの? 会長が期待してた」

「人物写真は苦手でして……それにいくら学内LANと寮内LANからといっても学修用ノートパソコン以外からはキャッシュが残ります。それに、パラシュートの降下実験とやらは撮影してみたいと思うんですが、なにをやっているかは説明されてもまったくわからないんです。理解力が足りないせいでしょうか」

「噂によると」

 部長は声のトーンを落とした。

 かなり念入りに前置きして話しはじめる。

「飛鳥井の他に二人ぐらい、推薦入試でロケットを飛ばしたいと熱弁したんだってさ。その三人が入学式で顔を合わせたらどうなると思う?」

「さぁ、まったくわかりません」

「新規同好会の起ちあげと顧問の確保。同好会は三名以上から起ちあげ可能だ」

「え、もしかして去年の四月からすぐに動いてたってことですか?」

「そうそう。予算なんかついてないのに種子島まで顧問と一緒に行ったんでしょ。どういう行動力だよ」

鳳丘おおとりおかからじゃあ、飛行機で二時間以上かかりますからね」

「今年も同好会のままだけど、新規入会もあるし、予算もついた」

「へ!? そうなんですか!?」

「評議会で決まったんだよ。牧野が呼ばれたのもそのせい。お前さぁ、もう少し学内のこと、気にしない?」

「気になるのは成績だけです」

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