第1話:異世界で最初に作った料理

 気がつくと、俺は草原の真ん中に立っていた。


 見渡す限りの青空。風に揺れる草。どこか懐かしいような、でも現実離れした景色。


「……異世界か?」


 口に出してみても、返事はない。


 とりあえず腹が減った。状況はそれから考えればいい。


 幸い、転移のときに持っていたバッグはそのままだった。中には簡易調理セットと、昨日買った食材が少し。


「……まあ、なんとかなるか」


 鍋を取り出し、火を起こし、スープを作り始めた。


 香草の香りが風に乗って広がる。


 そのとき――。


「きゅいっ!」


 白くて丸い生き物が、俺の足元に転がってきた。


 直径30センチほど。ふわふわ。丸い。甘い匂い。


「……なんだお前」


「きゅいっ!」


 俺の足にすり寄ってくる。どうやら敵意はないらしい。


 試しにスープを少し差し出すと――。


「きゅいぃぃ……!」


 とろけるような声を出して飲んだ。


 その瞬間、体が淡く光った。


「……?」


 光はすぐに収まったが、何かが変わった気がした。


 白い生き物は、俺の足元にぴたりと寄り添う。


「ついてくるのか?」


「きゅいっ!」


 どうやら、仲間ができたらしい。


 こうして、俺の異世界生活は始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る