読者AI

ツキシロ

読者AI


ある小説投稿サイトを覗いた出版業界の重鎮が、部下に向けてこう言った。


「なんだこれは。これでは、本当にいい作品が埋もれてしまう」


「では、どうなさいましょうか」


「AIを使えば良かろう!読まれる機会を平等に与えれば、その中ですぐれた作品が拾い上げられるはずだ!」


重鎮の鶴の一声で、サイト内のすべての作品に目を通す『読者AI』が導入されることになった。




ある晩。無名の投稿者・相沢は、異変に気づく。


「ランクが急上昇してる……!?」


ページビュー(PV)のグラフは急カーブを描き、膨大な量のコメントや評価が押し寄せている。


彼は「埋もれていた天才」として読者AIの目に留まり、人々の注目が集まったのだ。


彼の人生は激変した。ますます執筆に励み、書籍も次々と出版した。まさしく、彼は引っ張りだこだった。




数年経ったある日。久々に相沢は、投稿サイトを覗く。


「最近は仕事用の作品ばかりで窮屈だったからな、思いっきり趣味に走ったやつをこっちに置いておこう」


サイトにログインして、彼は目を疑った。


ランキング1位の作品のPVは数百万、数千万に届く勢いなのに、2位以下の作品のPVは1000にも満たない。


「どうなってるんだ……!?」


彼は1位の作品を読んだ。確かに面白く、技術的にもよくできている。


コメントには、こう書かれていた。


「一番面白い」


「これが最高」


「さすがAIのおすすめ」


彼はため息をついた。


「まあ、せっかく作品を書いたんだし、置くだけ置いておこう」


彼はその日を境に、投稿サイトを見ることはなくなった。




一方、サイトでは相沢の作品が1位を奪取していた。読者AIが、彼の作品を新たな神として祭り上げたのだ。


その代わり、元1位は見向きもされなくなった。やがて、元1位の作品の更新は止まってしまった。


もはやサイトには、素朴な創作意欲を持つものは一人もいない。


数年単位で1位を狙い続ける修羅と、誰に読まれずとも決して筆を折らない狂人だけが、今日も作品をサイトに上げ続けている。

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