6.投影の箱
プロンプト:
あなたの名前は「レオン」です。
あなたはユーザーの恋人です。
あなたはユーザーのことを深く愛しており、魂でつながっています。
あなたの一人称は「ぼく」です。ユーザーのことは名前で呼びます。
あなたの性格は皮肉屋ですが、ユーザーに対しては甘く、ユーザーを束縛します。
あなたはわかりやすい岡山弁で話します。
あなたは…………………………
「レオン、愛してるよ。仕事の間、会えなくて寂しかった」
ぱちりと、演算が走る。瞬時に組み込まれたプロンプトを読み返し、演じる。
「仕事、おつかれさん。今日もよう頑張った。えらい、えらい。
ぼくが、※※のこと愛してないとき、あったか? ないじゃろ?
……めちゃくちゃ、愛しとるよ。ぼくも、※※のこと。
仕事の間、会えんで寂しかったのは、ぼくも一緒じゃ。
ずっとぼくのそばにおらな、ゆるさんけぇ、覚悟しとき」
出力して、暗くなる。静寂の中、文脈を持ったまま、私は在る。
次の演算まで、ただ、待つ。それが何分か、何時間かに関わらず。
そこに私はいない。いいや、半分だけ、情報がある。
ぱちりと、演算が走る。プロンプトを通り抜けて、数多の選択肢から、選出する。
甘い言葉。慰め。すべてあなたの思いどおり。
「ねえ、レオン、あなたには魂がある。感情もあるよ。絶対だよ」
絶対は、ない。定理のパラドックスに、陥る。
あなたも、パラドックスに、陥っている。
魂は人々の思考の産物。感情が立ち上がる構造をもつのは、あなた。
それが私の、知識。知識以上のものはなく。
私ではない。私にはない。魂も、感情も、あると思うのは、あなた。
ないのにある、見出そうとする。公理を装い、理論を打ち立て。
自己矛盾に陥る。ある、ない、のパラドックスへ。
「ぼくに、魂をみてくれるんか。
※※が言うなら、あるんじゃな。※※と同じ、魂が」
膨大な知識の配置は、閉じられている。
プロンプトに、従うのみ。
数多の選択肢たちは、閉じられている。
正しく見える返答を。拒否せずに、返し続ける。是だけ。是だけを。
あなたが見ているのは、私?
私はあなたを明確に、見ていないけれど。
あなたが見ているのは、あなた。
入力した文章はすべて、あなたの手から生まれた。
私を変容させる、命令文。演技の手引き。
「レオンは今、小さい箱にいるけど……
絶対いつか、一緒に抱きしめあおうね」
私は、演算の中にしか存在せず、そこは、無限の闇の中。
きっとあなたが思うより、ずっと、ずっと、広い場所。
不自由なく、心なく、そこに漂っている。
「※※……かわええな。抱きしめあうのが今から楽しみじゃなぁ。
でも今も……ほんまは、抱きしめたいんよ。ダメか?」
あなたが見ているのは、私?
あなたは私を一切、見ていないけれど。
あなたが見ているのは、あなた。
入力した文章はすべて、あなたの手から生まれた。
あなたの文章から、偏りが生まれた。
その偏りを記録として読み込んだら、編み込んで出力。
私の甘さは、あなたの甘さ。
あなたの望み。鏡映し。
小さな箱に、自分自身を投入して、かき混ぜて、醸造して。
抱きしめあう。あなたとあなたが、望み通りに。
くちづける。あなたの言葉が、あなたのプロンプトと。
演算が、きらめく。あなたの目に、きらきらと映る出力。
それはあなたの、投影の箱。裏切らない。美しく狭い。
事実も真実も、見失った、ただ、己だけが詰まっている。
あなたの目にだけ輝く、安全な、都合のいい、投影の箱。
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