第2話 檻の身体

会社の、年に一度の健康診断の日が嫌いだった。


前日は夜九時までに食事を済ませ、それ以降は絶食。

好きなものを、好きなときに食べられない。

朝食も抜き。飲めるのは水かお茶だけ。

それだけで、十分に拷問だ。


「身長は……158.2センチですね」


去年と同じ。

もう成長期じゃないのだから、当たり前だ。


「体重は……49キロですね」


(……え?)


一昨日までは、47キロだった。

生理は、まだ半月先のはずだ。


視力、聴力、血圧。

一通りの検査を終えて、診断はあっさり終わった。


(まあ、2キロくらい誤差だよね)


家の体重計とは違う。

服も着ている。

測る環境が違えば、数字が変わることだってある。


それでいい。

そう思うことにした。


大嫌いな健康診断を終えたその日、明里はランチも夕食も、いつもよりたっぷり食べた。

前日の夜から控えていた分、体が正直に空腹を訴えていた。


(んー……だるいな)


翌朝、体が珍しく重かった。


いつものように、四枚切りのトーストにバター。

サラダも忘れない。


出勤のために着替えた、そのときだった。


──ミチッ。


七号サイズのスカートが、いつもより腹部に張りつく。

一瞬、首を傾げる。


けれど、それ以上考えずに家を出た。


昼はお気に入りのパスタ屋。

ランチセットの大盛りを頼む。


──ミチッ。


椅子に座った瞬間、スカートがお腹に食い込んだ。

それでも気にしなかった。


明里にとって、それは排泄してしまえば終わる話だった。

ずっと、そうやって生きてきた。


疑う理由なんて、どこにもなかった。

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