第3話 朝食の場で

シイナと共にダイニングへ着くと、シンシアはもう席についていた。

(シンシア、若くなっているわ・・)

前はもう少し背が伸びて、大人びた雰囲気も出てきていたが今はその雰囲気はない。あどけなさがまだ残っている。ルイザと同じ銀色の髪を腰まで伸ばし、頭にカチューシャを付け、エメラルドグリーンの瞳を輝かせたシンシアはルイザを見てにっこり笑った。

(・・まるで天使のようだわ・・)

久しぶりに愛娘を真正面から見ることができ、ルイザは心の中で感涙していた。


「お母様、おはようございます。」

「シンシア!おはよう!」

自身が病気になってから頻繁に会うことができなくなっていたシンシアに会え、かわいい笑顔を見た時ルイザは気持ちが抑えられなくなりシンシアに抱き着いた。

「?お母様?」

「あ、ああ、ごめんなさいシンシア。すこし変な夢を見たみたいで。だから今あなたに会えてとっても嬉しいの。」

急に抱き着かれて驚いているシンシアを見てルイザは笑顔で話した。会えた嬉しさで顔をにやつかせながらルイザも自身の席に着いた。


席に着くと同じタイミングでグレーの髪に金の目をした夫、ヨハスもダイニングへ入ってきて2人へにこやかに笑いながら席に着いた。

「ルイザ、シンシアおはよう。今日もいい天気だね。」

「おはようございます、お父様。」

「・・おはよう」

(ヨハス・・もうこの頃から私への裏切りを本格的に始めていたのね・・)

ルイザはヨハスを見て、疑惑と怒りを抑えながらもルイザはぎこちない挨拶を返し、3人は朝食を取り始めた。


3人が食事を終えた後、ヨハスはルイザへ声をかけた。

「少し相談があるんだが、後から執務室へ行ってもいいかい?」

「ええ、良いわよ。今ここで話せる内容なら、今でもいいけれど。」

ルイザの返答を聞いた後、ヨハスはそれならと口を開いた。

「シンシアも大きくなってきたし、外からお客様を迎える機会も増えるだろう?その分使用人の人数を増やしていたほうがいいと思っていて、メイドを数人雇うつもりなんだ。」

ルイザは目を見開いた。

(確かこの頃だったわね・・あの女、マリサがクレアトン伯爵家に来たのは・・前と同じ流れ・・ということはやはり、私が死んだことは本当だったのね。)

「・・そう、わかったわ。メイドを入れる前に私にもメイドの推薦書を見せてもらえる?今まであなたに人選は任せていたけど、娘のこととなれば私も確認したいわ。」

にっこりと笑顔でルイザはヨハスに言葉を返す。今までのルイザは領地経営を自身でしていた。が、最初からいる執事やメイドなどを除き、途中から入職するメイドたちのことなど、家の中のことはヨハスにまかせっきりだった。


今まで言われたことの無かった発言にヨハスは目を丸くし、少し動揺しつつも

「わかった。後から推薦書を執務室に持っていくね。」

と返答し、そそくさとその場を去った。去り行くヨハスの姿を見ながらルイザは思った。

(我が夫ながら、なんかこう弱っちさが出ている夫・・・そしてそんな奴に出し抜かれる自分・・)

自分が筋肉もついていない軟派な夫に騙され、殺されたことを振り返りなんとも情けない気持ちになった。

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