第5話
"Lは婚約破棄された私の手を握り、情熱的に求婚してきた。彼もまた過去に相手の浮気から婚約破棄になった経験がある。私たちは互いの傷をなめ合うように一緒にいることを決めた。"
ライナスは私との距離を縮めるために、いろいろな場所にデートに誘った。ディナーに、観劇、そして遠乗り。セドリックと一緒にいた時も令嬢たちからの羨望の眼差しを浴びることはあったが、氷の貴公子・ライナスを落としたということで、社交界での私の知名度はうなぎのぼりだ。今日は王宮舞踏会、私のパートナーはもちろんライナスだ。彼の瞳の色に合わせた紫色のドレスに身を包む。
「きゃあ、ライナス様よ。麗しいわ。」
「隣のご令嬢はワトソン伯爵家のメリッサ様よね。どんな手を使って彼を落としたのかしら?」
どんな手。――その疑問に率直に答えるなら「コラム」だ。だが、これはクリストファー従兄さんの伝手があって実現したことで、普通の令嬢が行うには難しいだろう。
"Lの手を取り、ダンスホールの真ん中で躍り出る。彼の元々の婚約者は高貴なお方。エスコートはとても手慣れている。初めて一緒に踊ったと思えないほど、私たちの息はあっていた。Sとの辛い別れは全て彼と巡り合うための序章だったのかもしれない。"
ダンスを終えると私たちは、会場の端に捌けた。
「そういえば、どうしてあの日、仮面舞踏会に参加されていたんですか?お付き合いして思ったんですが、ライナス様らしくないですよね。私は完全にセドリックの尾行が目的でしたけど。」
「お恥ずかしい話、私があまりふさぎ込んでいるので、友人に少し"女遊び"をするように誘われたんです。仮面舞踏会に連れてこられても、結局私には"女遊び"ができなかった。それでホールにいるのも息苦しくて中庭に出ようと思ったら、あなたに出会った。」
「あ、そういうことだったんですね。」
「そういえば、メリッサ様。『令嬢Mの婚約者観察日記~S編~』ですが、とても売れているらしいですね。本屋でも売れ筋だと言われて、私も鼻高々です。」
「いえ、クリストファー従兄さんがいつの間にか企画を通してくれて、クリストファー従兄さん、さまさまです。」
『令嬢Mの婚約者観察日記~S編~』は、クリストファーがコラムをまとめて本にした。初めは誰が読むのかと思ったけれど、思いのほかよく売れているらしい。クリストファーも喜んでいた。そんな話をしていると、会いたくない人たちが痴話喧嘩しているのが目に入った。ティアニー夫人とニコラだ。ニコラは出産を終えたばかりだと聞いたが、貴族が一同に会する王宮舞踏会のため、ハートフィールド家の嫁として出てきたのだろう。真ん中でセドリックがおどおどしている。
「セドリック様、どうしてこんな"おばさん"と関係をお持ちになったの?!信じられませんわ!ニコラは妊娠中でしたのよ。」
「あなたのことを、口の利き方を知らないってセドリックが言っていたけど、本当でしたのね。そもそも私たちの関係は、セドリックがあなたと関係を持つずっと前から続いているの。あなたが私のかわいいかわいいセドリックを盗んでいったのに良く言うわ。そうだ、いいこと教えてあげる。セドリックあなたじゃ、全然物足りないって。彼はもっと激しいのがお好みなの。」
「セドリック様、嘘でしょう?嘘って言って。」
ニコラが金切声を上げる。
「皆見ている。ニコラ、もうヒステリーを起こさないでくれ。ティアニー侯爵夫人も申し訳なかった。ニコラには口の利き方を注意しておく。」
セドリックがティアニー夫人に頭を下げた。私の時は必死に浮気の言い訳していたのに、ニコラ相手だと世間体の方が気になるのだろう。
「おお、これは新鮮なネタが転がってきましたね。メリッサ様がどう調理されるか楽しみです。」
「もう、ライナス様ったら。」
私たちがクスクス笑いながら話していると、何故かセドリックと目が合った。そして、隣にいたニコラとも。彼らはこちらを睨みながら、一直線に向かってくる。私は思わず、ライナスの影に隠れた。
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