第10話 梅雨の終わり

 梅雨の終わりが近づいている。


 空はまだ灰色に覆われているが、雲の隙間から差し込む光が少しずつ強さを増している。


「まだ来なくていいのに」


 誰に向けたわけでもない言葉が、耳の奥で静かに響く。


 頭上にぽつり、ぽつりと滴が落ちる。


 雨が減れば、彩芽に会えなくなってしまう。


 夏の空気が嫌いなわけではない。でも、もう少しだけ待ってほしいと思ってしまう。


 焦燥感という風に背中を押され、俺は屋上を後にした。


 肌に触れるむわっとした風が頬を撫でる。


 乾いた風は、自分の内側と切り離されたように感じる。


 願っても、雨は降らず、乾いた風だけが頬を通り過ぎていく。


 今年は例年よりも雨が少ない。


 気象情報でも、そう言われていた。


 それでも、降水確率50%の文字を見ると、つい期待してしまう。


 今日こそは雨が降るのではないか——その期待が裏切られるたびに、思いは募っていく。


 溜め息が、自分の部屋に静かに積もっていく。


「今日も駄目だったか」


 自分がただ時間を浪費しているだけだということは、わかっている。


 俺は彩芽の幻影を追っているだけなのかもしれない。


 それでも、俺は追い続けてしまう。


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