覚醒したら前世が織田信長だった!目立ちたくないけど!学園バトルゲーム援護として戦います
ミルク
第一章 同じ夢を見る
最近、同じ夢を見る。
毎日ではない。
だが、見る時は決まっている。
目を覚ます直前だ。
火がある。
夜ではない。
だが、空は暗い。
昼と夜の境目が、どこにも存在しない。
ただ、灰色に濁った空の下で、炎だけがはっきりと揺れている。
近い。
手を伸ばせば、触れそうな距離だ。
だが、熱はない。
燃えているはずなのに、
肌は焼けず、服も焦げない。
おかしいと分かっている。
それでも、夢の中の自分は疑わない。
炎の向こうに、建物が見える。
城だ。
高い石壁。
歪んだ屋根。
折れ落ちた梁。
崩れかけているのに、
なぜか懐かしさだけが胸に残る。
誰かが叫んでいる。
怒号。
命令。
叱責。
多くの声が重なり、
言葉にならない音の塊となって耳に届く。
距離は遠い。
まるで、水の底から聞いているようだ。
だが、感情だけは近い。
焦り。
苛立ち。
恐怖。
そして――裏切り。
その言葉だけが、
はっきりと胸に落ちてくる。
意味は分からない。
誰が、誰を裏切ったのかも分からない。
それなのに、
その言葉を理解した瞬間、胸の奥が静かになる。
怒りはない。
悲しみもない。
あるのは、納得だけだ。
逃げ道はある。
それが分かっている。
それでも、足は動かない。
走ろうとも思わない。
叫ぼうとも思わない。
――ここで終わる。
そう判断した自分が、
確かにそこに立っている。
疑問を持った、その瞬間。
視界が、白く割れた。
まるで、薄いガラスが砕け散るように。
*
目を開けると、天井があった。
見慣れた天井。
自分の部屋だ。
朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいる。
心臓は普通に動いている。
呼吸も、乱れていない。
汗も、かいていなかった。
それでも、頭の奥が重い。
鈍く、何かが残っている感覚。
「……またか」
小さく呟く。
夢だったはずだ。
そう理解している。
だが、
夢だったと割り切れない。
起き上がる。
身体に違和感はない。
力が入らないわけでもない。
ただ、
動作がやけに正確だった。
制服に着替え、鞄を持つ。
無駄な動きがない。
考える前に、身体が動いている。
洗面所で鏡を見る。
自分の顔が映っている。
昨日までと同じはずの顔。
だが、どこか違う。
目つきが、はっきりしている。
鋭い、というより――
迷いがない。
「……まあ、いいか」
理由は分からない。
分からないことを考えても、答えは出ない。
そう判断するのが、
いつもより早い気がした。
家を出る。
通学路は、いつも通りだ。
人の声。
車の音。
風の音。
特別なことは、起きていない。
それなのに、
音が整理されて聞こえる。
遠い音と近い音。
必要な音と、そうでない音。
自然に分かれている。
違和感はある。
だが、不快ではない。
学校に着く。
校舎の中は、少し騒がしい。
以前より、声が大きい。
視線が、どこか鋭い。
だが、この時点では、
まだ理由は分からなかった。
ただ――
胸の奥で、何かが静かに動いている。
燃えない炎のような、
名前のない感覚。
それが何かを知るのは、
もう少し先の話だ。
この日、
織部一はまだ知らなかった。
自分が見ている夢が、
「過去」であり、
「始まり」であることを。
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