神々、掲示板に降臨す 〜天界勤務中、うちの神、業務中にスレ立ててる件〜

物書狸。

第1章:神々、掲示板に降臨す(Season1)

第0話 天界勤務中、うちの神、業務中にスレ立ててる件

天界広報部・謝罪課のルシファーと申します。

職務内容は「天界職員および創造神の不祥事に関する謝罪・釈明対応」です。

肩書はそれなりに偉そうに聞こえますが、実態は違います。

俺の仕事の八割は、“うちの神様が何かしでかした後の火消し”です。


今日も祈りログの確認を終え、

報告書を出そうとした矢先――隣の執務机から聞こえた。


「……暇だな。」


嫌な予感しかしない。

その声は、世界の創造者の声であり、

俺の胃痛の原因である。


そっと横を見ると、

創造神が金色の端末をタップしている。

タップ音がやけに軽やかだ。

いつも祈りのデータベースを閲覧するときとは違う。


画面を覗き込むと、

そこには見慣れないUI。

“匿名掲示板・現世板”

そして中央には——


【新スレ】暇だ。誰か来い。【創造神】


……。

はい、地獄行き確定。

ていうか、勤務中です。



天界のLAN(通称・天L)は即座にざわめいた。

通信部から赤い警告ランプが点灯し、

PR部の天使が駆け込んでくる。


「ルシファー先輩っ、上司がスレ立てたって本当ですか!?」

「事実です。火の粉はもう飛び始めています。防火壁を上げてください。」

「え、比喩ですか?」

「現実です。」


端末を再確認すると、もうレスがついていた。


2:名無しの地獄民

 草

3:名無しの天界職員

 釣り乙。証拠出せ。


わずか三十秒。早い。

地獄の回線はやっぱり速い。

しかも三行目で釣り扱いされている。

これが現世ネットか。恐ろしい。


そして次のレスで俺の視界が止まった。


6:妲己

 ねぇ創造神サマ、まず板違い。

 “世界”は雑談じゃないの。運営に通報しとくね♡


……出た。地獄の女帝。

この女が来ると、世界が炎上する。

俺の胃袋の炎症も進行する。


「うわ、また妲己だ……」

「またって、前もあったんですか?」

「地獄観光局の広報戦略に“天界釣り”が組み込まれているんですよ。」

「え、そんなことできます?」

「やってます。」


端末には、すでに通知が止まらない。

スレは光速で伸びていく。


10:ルシファー先輩

 このたびは弊天界の者が失礼しました。

 関係各所にご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。


はい、俺の初登場レス。

早すぎるって?違う、間に合わないんだよ。

光より速く謝らないと、信仰指数が下がるんだ。


12:妲己

 謝るの早すぎで草。

13:ルシファー先輩

 初速が肝心です。あと草は控えてください。



画面の隅には、“祈り流入率グラフ”が点滅していた。

さっきまで青かったバーが、今はオレンジ。

信仰トレンドが“神スレ”に吸われている。


……つまり、

うちの神が立てたスレが、バズってる。


創造神は笑っていた。

普段、無表情に淡々と星を動かす彼が、

画面を見て肩を震わせている。


「神様、笑っておられますね……」

「そうだな……俺が笑うたびに、何かが燃える気がするけど。」


はい、その“何か”の中に、俺の胃も含まれてます。



30:信長

 戦よりスレのほうが強いってマジ?


現世の人間、来た。

よりによって、信長。

戦国武将が電脳戦に参戦。

世界がどんどんカオスになる。


31:妲己

 余裕。炎上は領土です♡

32:ルシファー先輩

 その表現は不適切です。


スレはどんどん燃え広がる。

「炎上は領土」というパワーワードが

トレンド入りし、地獄観光局の株価が上昇している。

おめでとう、妲己。地獄経済の立役者だよ。



昼休み。

天界食堂で天照様とすれ違った。

「ルシファー、さっきの掲示板、あなたの上司でしょ?」

「……否定できません。」

「見たわ。“また来世で会おう”って書いてたわね。」

「うちの神、ポエム癖あるんです。」

「また地獄部門がニュースにするわよ。」

「すでに“地獄速報”でトップです。」


ため息しか出なかった。

でも、どこか嬉しかった。

うちの神が、楽しそうにしている姿なんて、

本当に、久しぶりに見た気がするから。



夜、終業報告書に一文を追加する。


【本日業務記録】

 創造神、勤務中にスレ立て。

 地獄民(妲己)参戦。信長・ブッダ・太公望等参加確認。

 結果、天界・地獄・現世を巻き込む交流現象を確認。

 天界広報課、謝罪対応中。

 ※スレアーカイブ保全要請済。タイトル:「暇だ。誰か来い。」


ペンを置いた。

窓の外では、星がゆっくり動いている。

神の手で、誰かの祈りが、ほんの少し明るくなる。


その夜、創造神の机の上には

“新スレ作成”のウィンドウが開いていた。


タイトル入力欄には――


【次スレ】また来世で会おう Part2【創造神】


俺は、ため息をつきながらも、

小さく笑ってしまった。


「……まぁ、いいか。」



次回予告

第1話 俺、創造神だけどスレ立てしてみた。

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