何回目の世界かで

垂直双極子

では、次の世界で。

「私さ、三回くらい世界を滅ぼしたんだ」


 某日、某所の屋上。そこで某人物に出会った。


 彼女の髪は黒く艶があり、風に靡かれて幻想的な、何処かミステリアスで、美人という言葉を使うには少々悩ましい。「あぁ、これは関わってはいけない人だ」という印象が八割。あと二割は結構どうでもいい雑念。


 記憶にないだけなのか、それなら彼女には残念だったと思ってもらうしかないが、出会ったことは一度もない。


 兎にも角にも彼女が言ったことについては「意味が分からない」の一言に尽きるし、それ以外の言葉も見つからずそれを口にした。


「意味が分からない」

「私も!」


 彼女はゲラゲラと笑った。「関わってはいけないやつだ」という印象が十割。最初に美人だと少しでも思ってしまったことが悔やまれる。


 そうそう、自分はなぜ屋上なんかにいるんだっけ。屋上って言ったら自殺に限るわけだ。そうかじゃあ、早急にこの世界とおさらばしてしまうのがこの不審者から逃げる良い方法だ。


「うん。そっか。じゃあね」


 一応共感くらいはしておいてあげる。何というか可哀想な人だな。主に頭が。他は何というかまあ、美人なのに。


「いやー。死なれると困るんだよね。私、君のこと好きだから」


 初めての告白に動揺した。なんてことはなく、全くもって心揺さぶられすらもしなかった。恐ろしく棒読みで、感情がこもっていなかったから当然だ。


「嘘でしょ」

「うん。嘘」


 彼女は頷いた。


「いやもう何回目の世界だよって。こっちも自暴自棄なんだ。じゃ、どうぞ適当に死んで」


 最後の最後まで意味のわからないことを宣う。言われなくても死ぬよ。そう思いながら足を踏み出すと空を切った。


「君が死ぬと世界が巻き戻るから、一向に進まないんだよね」


 空を切る音に紛れて、そう聞こえた気がした。

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