まんなか

ためひまし

第1話 まんなか

イヤホンを奥までぎゅっと

軽い音に逃げて

昨日を背中に残したまま

幹線道路を歩く


ランプがちかちか

夜をスライス

信号 呼吸 エンジン

合ったり 合わなかったり

眠った街のまんなか


えらべないしあわせが

わたしの奥で

居座って

呼吸を奪っていく


古い石垣に手を

ひび割れた冷たさが残る

この奥に

昔の街の音

人の気配

まだ沈んだまま

でも

誰ももう気にしてしない

使い切られたありさまのかけらだけが

街角に転がったまま

ずっと拾われない


道ばたの石まで見よ

どこかで聞いた気がする

遠くでかすれて

溜めこんだものが

夜の隙間を

ほんの少しだけ押し広げる


歩くたび

足裏に冷えがくっついてきて

それが

これまで積み上げたわたしを

勝手に引っ張り出す

いつのまにかのわたしが

わたし形を作り替える


春の明け方はまだ寒い

犬だけが理由もなく

しっぽを振っている

コンビニの光が

闇に穴をあけている


丸くなった店員の背中越しに

「百九番」

ドアの音がぷつんと

吸いこんだ乾きが沈む

煙はゆるやかに崩れて

白くなって

夜の表面をすっとなぞる


揺れた火が

一瞬だけ

名もないところを照らして

止めてた足が

また前に出る


ほどけない気配が 重なって

他人で区切られた線が

夜の影で

ぎしっと音を立てる


街は

波を毎朝新しくして

昨日のぬくもりなんて

あたりまえにぬりかえる

広がりすぎた空白に

鼓動だけが遅れて破裂して

止まらない隙間を

どうにか掴む

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