あなたを覚えていなくても愛している。

@Laliga

第1話 忘れる女

七海(ななみ)は、毎朝同じノートを開くところから一日を始める。

白い表紙の、何の変哲もない大学ノートだ。


――私は前日の記憶を失う。


二十二歳の春、交通事故に遭ってから、そうなった。

眠ると、昨日が消える。

今日起きた私は、昨日の自分が残した文字でしか、自分の人生を確認できない。


・私は七海

・家族は元気

・泣かなくていい

・今日は、ちゃんと生きて


ノートの最後の行は、いつも少しだけ滲んでいる。

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