「教室中央の円形球体」が官僚的な恐怖なら、こちらは静かで温かい怪談だ。同じほしわた氏が書いたとは思えないほど、空気が違う。
淡々とした三人称に近い語りが、河川敷の夕景と少女の姿を丁寧に積み上げていく。制服のわずかな違和感、目が合ったときの「知らない相手に向ける笑い方には見えなかった」という一文、「無理なんです」という少女の静かな答え——これらが怖さではなく切なさとして積み重なっていく。
先生の話、図書館の古い紙面、そして押し入れの卒業アルバム——少年が真実に近づく過程が丁寧で、読者も同じ速度で「何かが分かりかけている」感覚を共有する。
そして最後の一行。
「それは、僕の母の名前だった」
ホラーとして読んでいた物語が、この一行で「息子に会いに来た母親の話」に反転する。怖さよりも、時間の重さと、届かなかった再会の悲しさが残る。完結済み1話・2100字。ほしわた氏のホラー二作の中で、「教室中央の円形球体」と合わせて読むと、この作者の感情の振れ幅がよく分かる。