領地ごと異世界無限旅〜あらゆる世界の技術と魔法を合成して、最強移動都市を作ります。神々が配信見ているようなので、高評価とチャンネル登録お願いします〜
@iinehoshi
第1話 俺のシマに土足で入るな
目が覚めると、知らない空が広がっていた。
「……勝った、よな」
脇腹がずきずきと痛む。黒田の拳の感触がまだ残っている。
隣町のマンモス校のトップとのタイマン。最後に立っていたのは俺だった。
だが、その直後。頭上で嫌な音がして、何かが落ちてきて。
翔吾は身を起こし、まず髪に手をやった。
崩れてない。リーゼントは無事だ。
「よし」
それだけ確認できれば、とりあえず大丈夫だ。
周囲を見渡す。荒れ果てた空き地。今にも崩れそうなボロ屋敷。錆びついた古井戸。
乾いた風が、土埃を運んでくる。鼻の奥がざらついた。
「ここ、どこだよ」
その瞬間、目の前に光る板が浮かび上がった。
『領地管理システム起動。新領主を認証しました』
『全次元配信を開始します』
「あぁ? 配信?」
翔吾は反射的にメンチを切った。
光る板の横から、人影が現れる。黒髪の三つ編み。銀縁眼鏡。白いブラウスに紺のスカート。
どこからどう見ても、学級委員長だ。
「ようこそ、次元漂流領地へ。私は管理AI、ナビ子です」
「おい委員長。俺は死んだのか」
「委員長ではありません」
ナビ子は眼鏡をくいっと押し上げた。
「そして、はい。あなたは一度死亡し、この領地の主として転生しました」
「転生」
「簡単に言えば、ここがあなたの新しいシマです」
シマ。
その言葉に、翔吾の目つきが変わった。
「俺の、シマか」
「はい。ただし現状、領民ゼロ。資源ゼロ。このボロ屋敷だけです」
「上等じゃねぇか」
翔吾は立ち上がり、短ランの埃を払った。
シマがある。なら、やることは決まっている。
その時、空中に文字が流れた。
『【軍神アレス】が視聴を開始しました』
『【深淵の暇人】が視聴を開始しました』
「なんだこれ」
「神々があなたの冒険を配信として視聴しています。気に入られれば御祝儀がもらえますよ」
『【深淵の暇人】: 髪型すごいな。武器?』
『【軍神アレス】: いい殺気だ。見せてもらおう』
翔吾は舌打ちした。
「勝手に見てんじゃねぇよ」
森の奥から、複数の気配が近づいてきた。
「翔吾さん、ゴブリンです。この次元の下級魔物で」
「敵か」
「話を最後まで」
緑色の小柄な生き物たちが、錆びたナイフを構えて姿を現した。五匹。
先頭の一匹が、黄色い歯を剥き出しにして笑う。
「人間、殺す。肉、食う」
翔吾はポケットからスパナを取り出した。
愛用の工具。いつだって懐に入れている。
「おいおい。俺のシマに土足で踏み込んできて、随分な挨拶じゃねぇか」
「翔吾さん、撤退を」
「するわけねぇだろ」
翔吾は一歩、前に出た。
肩の力を抜く。膝を軽く曲げる。喧嘩の構えだ。
「いいか、緑の小僧ども」
声が低くなる。
「俺のシマじゃ、俺がルールだ。歯ァ食いしばれ」
ゴブリンたちが一斉に飛びかかってきた。
先頭の一匹。ナイフを振り下ろす腕を、スパナで弾く。がら空きになった腹に拳を叩き込む。
吹っ飛んだ。
二匹目が横から来る。かわして、足を払う。転んだところに踵を落とす。
三匹目、四匹目。まとめて相手にして、まとめて地面に転がした。
『【軍神アレス】: ほう、いい拳だ』
『【深淵の暇人】: 強っ ウケるw』
最後の一匹が、震えながら翔吾を見上げていた。
他の四匹より一回り大きい。リーダー格か。
「つ、強い。お前、強い」
「当たり前だ」
翔吾はスパナをポケットにしまった。
「殺さねぇよ。だが次同じことしたら、骨の一本や二本は覚悟しろ」
ゴブリンの目が、大きく見開かれた。
そして、地面に額をこすりつけた。
「兄貴! オレ、従う! 強い奴についていく! 兄貴の舎弟になる!」
ナビ子のホログラムがチラチラとノイズを起こした。
「舎弟。この状況で舎弟」
「お前、名前は」
「ゴブタ!」
「いい根性してんじゃねぇか、ゴブタ」
翔吾はニヤリと笑った。
「今日からお前は、俺のシマの一員だ。飯は俺が何とかする。腹ペコのまま寝かせたりしねぇ」
ゴブタの目がきらきらと輝いた。
『【軍神アレス】が御祝儀を送りました』
『【深淵の暇人】: なんか面白いの始まったな。継続視聴確定w』
何かが翔吾の体に流れ込む。力が、ほんの少しだけ増した気がした。
「……波乱の領地経営になりそうですね」
ナビ子がため息をついた。だが、その口元はわずかに緩んでいる。
「夜露死苦」
翔吾の声が、荒れ地に響いた。
ボロ屋敷と、古井戸と、ゴブリンが一匹。
それが今の全財産だ。
だが、翔吾は笑っていた。
何もないところから始めるのは、別に初めてじゃない。
伝説は、ここから始まる。
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