セクシーな冬 ~未知からの学び~
神霊刃シン
カクヨムコンテスト11【短編】
第1話 セクシーな冬、未知との遭遇 ❄️
今年最後の雪、ちょっと降りすぎじゃない?
窓の外は、まるで巨大な粉砂糖の袋を誰かが破ったみたいに真っ白。
サラサラと雪が降り続ける音が、静かな朝の空気にしんしんと染み込んでいく。
帯広って晴天率高いんじゃなかったっけ?
猛暑と豪雪が交互に殴りかかってきた一年の締めくくりがこれって、誰の陰謀よ。
私は綾瀬結衣、35歳。
パートと農家の手伝いで毎日バタバタ。
クリスマスも終わって、年末は夫・悠真の実家に帰る予定。
IT企業勤務の悠真は今日から長期休暇――なんだけど――。
今年はほぼ在宅ワークだったから「いや、ずっと家にいたよね?」って気持ちが拭えない。
せめて早起きして朝ごはんくらい作ってくれればいいのに。
面倒だから、私はトーストとコーンスープの素で済ませるつもり。
洗い物も出したくないし。
悠真に任せると、なぜか洗い物が倍になる謎現象が起きるから、ここは私がやるしかない。
そんなわけで、キッチンで電気ポットのスイッチを押したんだけど――。
……反応なし。
もう一回。……沈黙。
その瞬間、冷蔵庫の「ゴウン」という低い唸りがふっと消え、家の中が一気に無音になった。
え、ちょっと待って。停電?
築三年のオール電化住宅。
ゼロカーボン補助金に釣られ、光熱費削減を夢見て、モデルハウスで営業マンに「未来志向!」って言われて舞い上がったあの日の私、出てこい。
外は氷点下、吹雪の予報。
年末の帰省どころか、今夜生き延びられるか心配なんですけど?
ふと、二階からの気配がないことに気づく。
陽斗(8歳)、今日は起きてくるのが遅い。
昨日は雪で大はしゃぎしてたのに……まさか熱?
いやいや、そんなフラグ立てないでよ、私。
そこへ、階段の上から「ふぁーあ」と大きな欠伸。
ようやく起きてきたと思ったら、髪は寝癖でトゲトゲ、パジャマのズボンは片方だけめくれて、お腹ぽっこり。
悠真、IT企業勤務って肩書きは未来志向っぽいけど、その腹は昭和だよね?
「悠真、停電?」
彼はスマホを握りしめて眉間にシワを寄せたまま、画面を見つめている。
こういう時だけ妙に真剣になるの、ちょっと可愛い。
「送電障害だって。復旧未定」
未定って何よ!
こういう時に限ってテレビは使えないし、タブレットを起動してニュース確認。
受信料返せって叫びたい。
画面には「暴風雪で広域停電、復旧の見通し立たず」。
え、立たずって何? 立たせてよ!
暖房も給湯も、すべて電気頼み。
冷蔵庫の唸りが消えた瞬間、家の空気がスッと冷たくなった気がして、背筋がゾワッとした。
窓の隙間から入り込む冷気が、足元をじわじわと奪っていく。
「未知って、こういうことなの?」
未来を信じて選んだ家が、今、命を脅かそうとしてるんですけど?
悠真はというと、スマホを握りしめたまま「どうしようかなぁ」と呟いている。
いや、どうしようかなぁじゃないよ。
でも、こういう時にパニックにならないのは、ある意味頼もしい……のかもしれない。
雪の音だけが、しんしんと家の中に響いていた。
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