AI小説 ~あなただけの物語~
よし ひろし
第一話 STORYME
『あなただけの物語が、ここにある』
シンプルなコピーの下に、スマートフォンを見つめる人々の穏やかな表情が並んでいた。
涼太は二十八歳。都内のIT企業でシステムエンジニアとして働いている。仕事は嫌いではないが、最近は上司の無茶な要求とクライアントの朝令暮改に疲弊していた。休日も、ただベッドで動画配信サービスを流し見るだけの時間になっていた。
何か、新しい刺激が欲しい――
そう思いながらも、人と会うのは億劫だった。新しい趣味を始める気力もない。ならばせめて、物語の中でくらい違う世界を見たい――そんな気持ちで、涼太は帰宅すると「STORYME」のアプリをダウンロードした。
登録画面は驚くほどシンプルだった。
メールアドレスと生年月日を入力し、利用規約に同意。それだけで、すぐに利用可能になった。
『あなたの物語を生成しています。最適な物語をお届けするため、SNS連携と位置情報の利用を許可してください』
涼太は一瞬だけ躊躇した。しかし、今どきのサービスはどれも似たような許可を求めてくる。問題ないだろうと、許可をした。
画面に読み込み中のアイコンがくるくると回る。三十秒ほど待つと、通知音が鳴った。
『生成完了しました。あなただけの物語をお楽しみください』
涼太は、表示されたタイトルを見て目を細めた。
「灰色の日々から」
作者名は「MeAI」。自分の今の気分を見透かしたようなタイトルだと思いながら、涼太は読み始めた。
物語の主人公は、二十代後半の会社員だった。名前は「
亮は都内のIT企業で働いている。上司の田所は無理な要求ばかりしてくる。クライアントの担当者、吉村は優柔不断で、いつも直前になって仕様を変更する。
そこで、涼太の手が止まった。
田所。吉村。
どちらも、涼太の現実の職場に存在する人物の名前だった。
偶然、だろうか。いや、たぶん違う。SNS連携を許可した時、涼太のタイムラインやメッセージを読み取ったのだろう。そこに登場する人名を物語に組み込んだに違いない。
涼太は少し不気味に感じながらも、読み進めた。
亮の日常は、驚くほど涼太自身に似ていた。朝七時に起き、八時過ぎの電車に乗る。昼休みはオフィス近くのコンビニでサンドイッチを買う。帰宅は夜十時。休日は部屋でゴロゴロしている。
まるで自分の生活記録を読んでいるようだった。
しかし、そこから物語は少しずつ変化していく。
『ある金曜日の夜、亮は残業を終えて帰る途中、いつもとは違う道を選ぶ。ふと目についた小さなカフェに引き寄せられるように入る。そこで、窓際の席に座る一人の女性と目が合う。
女性は淹れたてのコーヒーを両手で包むように持ち、窓の外をぼんやりと眺めていた。亮はなぜか、その横顔から目が離せなくなる』
それだけの場面だった。二人が会話するわけでもない。ただ、亮は何か大切なものを見つけたような気持ちになって店を出る――そこで第一章は終わっていた。
『次章は48時間後に配信されます』
涼太は画面を見つめた。
悪くない、と思った。自分の日常を下敷きにしながら、少しだけロマンチックな要素が加わっている。AIが書いたにしては、妙に心に残る描写だった。
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