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数多の人格を携えて生きる鏡花であるが、最深部の女帝に近い人格が一番厄介だ。だが普段の無邪気な子供のような一面よりもその一面を好ましいものとして俺は見ている。
女の普段の無邪気でまるこい瞳が横に伸び、鋭利な光を宿す。そうしてただ淡々と言放つ。
「人間に興味とか愛とかないんだよね。行動とか思考には興味があるけれど」
明るく人懐っこく、それでいて繊細で寂しがり屋な一面が一斉に引いた。いま目の前に居るのは、鏡花の最深部。普段滅多に人前に見せない、鏡花の本心部分であった。
この状態は理屈や理論を重んじ、あまり感情を挟まない。それ故に非常にやりやすいのだが、人に対する気遣いや、思いやりさえも捨てに掛かるので、扱いを間違えると鋭い刃を剥き出しのまま放置した事になる。
「鏡花」
「なぁに?」
「これでも食ってろ」
嫌な予感がした俺は目の前の籠の中からチョコ玉を一つ摘み取って、鏡花の口の中にそのまま捩じ込んだ。話を中断されてやや不服そうな顔をしているが、加速する前に対処するのが先決だ。
眉間の皺が取れる事はないが、黙って噛み締めて居るのを見ると、そこまでの不満は無い様だ。
「そうそう。私の周りには偶々、自慢話が多い男性と、ただ共感を求める女性が多いのだけど、そういう人達に対して『あぁ、自慢話してないと、共感して貰えないと、今の我が身が危ないのね』と思ってしまうの。
悪気はないんだよ。傷付けるつもりもない。ただそうしてラベリングして、確認を取った方が、後先の行動が分かりやすい。だから何時もそうやって聞きたいなとは思ってるの。
でもまぁ、怒るでしょう? 泣くでしょう? だから何時もだんまりなの。私も含めて見下されている事に何一つ気付いてない」
突発的な行動で思考を逸らしても、思考の再構築が早い。じぶんの理論に自信が着いが故、理論的には間違ってない事が確証されたら為、ややこうなっている。
俺はこれ以上酷くならないように、またチョコ玉の用意をする。すると鏡花の方から声がかかった。
「君の行いは飽きないね。少女漫画のヒロインにでも転生した方が良いんじゃない」
「馬鹿言うな」
そうして頬を抓った事は言うまでもない。
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