パンデミックが起きた世界で俺だけゲームのチュートリアルが始まった

四熊

パンデミック

 俺はパニックホラーが好きだ。特にゾンビが出てくるパンデミック物に関しては誰よりも詳しい自信がある。


 映画、ドラマ、ゲーム、漫画。有名どころは当然、B級、C級のような誰が見るんだこれ、みたいな作品まで一通り触ってきた。


 ゾンビが出ると聞けば、とりあえずチェックする。そのくらいの情熱を注いでいたのだ。


 そんな俺は何かに引かれるようにして仕事帰りに寄った中古屋でそれを見つけた。


 パッケージはやけに地味でタイトルとメーカーが大きなフォントで書かれていて、『君はゾンビから生き残ることが出来るのか!!』とあおり文が書かれているだけでイラストは無かった。


 パッケージを信じるのなら聞いたことのないメーカー名のゾンビゲームであることだけは分かる。


 一応、俺はスマホで調べた。中身が全然関係ないものだったら嫌だと思ったからだ。


 攻略情報なし。レビュー無し。プレイ動画もない。本当に謎のゲームだった。


「……こんなの今どきあるか?」


 ――怪しい。


 俺はそれを手に取り訝しげにじっくりと見る。だが、最終的にゾンビ好きとしての好奇心が勝った。


 値段はワンコインだし、最悪全然違うジャンルのゲームみたいな物でもいいと思い切って買うことにした。


 家に帰り、早速ソフトを入れる。


 ゲームが開始するとキャラクターの名前を入れる画面になり、俺はいつも通りに自分の本名で始めることにした。


斯波彰しばあきら


 こういうゲームをやるときはオンラインゲームでは無い限り、自分がその世界に入り込んでいるような気分になれるので本名でやっているのだ。


 そして、このゲームが始まった訳だが中身は本当にゾンビゲームでアイテムを入手しながらゾンビを倒したり、生存者からのミッションを受けたり、自身の拠点を作ったりと自由度の高いサバイバルみたいなゲームでとても面白い。


 夢中になってゲームをプレイし、ゲーム内の時間が一ヶ月を経過した時、前触れもなくエンディングが始まった。


 画面が暗転し、文字が表示される。


【END……?】


(何だよ、【END……?】って。終わりが唐突だな。でも、面白かったしもう一周やろうかな)


 俺がそう思った。――次の瞬間、スタングレネードでも投げ込まれたのかと思うほど激しくゲーム画面が発光した。


 目を開けていられないほどの白い光。


 悲鳴を上げる間もなく、俺の意識は一気に引きずり落とされた。




「……ん?」


 どのくらい倒れていたのか意識がはっきりしてくると慌てて、テーブルの上に置いてあったスマホを手に取った。


 俺には仕事がある、もし出社時刻に遅れたら大変なことになる。俺はプレイヤーにダイレクトアタックしてくるなんて、面白いと思っていたのにとんでもないゲームだと怒りを露わにしながらスマホのロックを解除する。


 そして、俺は日付を見て、息が止まった。


「……一週間?」


 なんとゲームをクリアした日から、丸々七日が経っていたのだ。


(ヤバい、こりゃ流石にクビか……。七日も無断欠勤だもんな。てか、このゲームのせいで気絶してたんだから何とかこの会社訴えられないか?)


 溜まっていたスマホの通知を一通り見ていくと案の定、会社からとんでもない量の電話がかかってきていた。


 だが、会社以外にも連絡が入っている通知がやけに多いことに気づいた。


 メッセージアプリを開くと友人からの未読がずらりと並んでいた。


『おい、生きてる?』


『ニュース見たか?』


 さらに下へスクロールすると地元の幼なじみ日野飛鳥ひのあすかからのメッセージがあった。


『あんた無事? こっちも大変なことになってる。あんたの両親はうちで保護してるから安心して。生きてたら必ず連絡して』


 何だか大変なことがこの日本で起きているみたいなメッセージを送って来ていて困惑したが、一応、「今起きた、無事」とだけ短く返信を打った。――既読はつかない。


 俺が意識を失っている間に何があったんだとネットで情報収集を始めた。


 ネットは同じ話題で埋め尽くされていたのですぐに原因が分かった。


《暴動が日本各地で発生》


《暴動の原因は人を凶暴化させるウイルスが原因か》


《感染者は人間ではないという首相の発言に批難殺到》


《感染者の人権は》


 ニュースサイトだけでなく、SNSも見てみる。


『私の家族は感染してしまいましたがまだ生きていて、誰も襲っていません。それなのに殺すのですか』


『あいつらはもう死んでるだろ。はよ、あいつらを殺せ無能政府』


 などと、前代未聞の時代に意見が真っ二つに分かれていることが分かったし、現状をしっかりと確認出来る動画付きの投稿もあった。


 画面の中で人が感染したであろう人に噛みつかれている。逃げようとした男が転び、次の瞬間、数人の感染者に取り囲まれて――。


「……」


 思わずスマホから目を逸らした。


 別の動画では、腹部が裂け、はらわたが垂れ下がったまま歩く感染者が映っていた。


 それでもコメント欄で『まだ治せる』『家族を殺すな』とのコメントが多く見ることが出来た。


 ここまで見れば、日本が相当不味いことになっていることはしっかりと分かった。。


 感染者を人して扱うべきか、脅威として排除すべきか。結論が出ないまま、時間だけが過ぎ、感染者はねずみ算式に増えた結果。


 ――日本は崩壊したらしい。


 一方で海外のニュースも流れてくる。


 アメリカは初期段階に大統領による非常事態宣言と同時に強権を発動。感染者の即時排除、都市の封鎖を行い、完全に感染者を排除出来ていないものの国家としてはかろうじて形を保っているようだった。


 だがまだ、世界崩壊とかではないだけ少しだけだが希望があるような気もしていた。


 俺はスマホを置くとゆっくりと自分の置かれた状況を確認する。


 今、仕事の都合で出てきた都会にある賃貸マンション。


「……隣、どうなってんだろ」


 嫌な想像が頭をよぎる。もし、ここの住民が感染していたらということだ。


 ずっとここに居ても食料もなくじり貧になるから脱出しようにもマンションの廊下、階段、エレベーターどこに感染者が潜んでいるか分からない状況。


 だが、この部屋で立てこもるとしてもバルコニーを伝って、窓を割って入ってくるなんてことも考えられる。


 ゾクリと背筋が冷えた。


 俺はパンデミック物は大好きだが実際に起きたら面白そうだと考えるタイプではない。だからこの状況が恐ろしくてしょうがなかったのだ。


 俺は一旦、玄関のドアスコープから外の様子を覗う。


 俺の部屋は角部屋でこの階の廊下が全部見える位置にあるため、この階の安全だけならここからでも確認が出来る。


「……いる」


 そこにははらわたが飛び出ている男性の感染者が廊下を徘徊しているのが見えた。


 反射的にドアスコープから顔を離す。あっちからは見えていないだろうが何だか目が合ったような気がしたからだ。


 俺の心臓がうるさいほどに鳴っていた。


 どうすればいい、頭の中が一気に真っ白になりかけた、その時だった。


 透明なウィンドウが俺の眼前に浮かび上がるというあり得ないことが起こったのだ。


 俺は驚きのあまり出そうになった声をこらえる。危ない声を出していたら外の感染者の襲撃を受けるかも知れなかったと胸をなで下ろした。


 ドア一枚の壁があるとはいえども、ドンドンと感染者に叩かれているうちに壊れてしまうかも知れないから場所はバレていない方がいい。


 俺は改めて、その眼前にあるウィンドウを見ると何やら文字が書かれていた。


【チュートリアル開始】


「……は?」


 目をこすってもそれは消えない。次いで電子音。ウィンドウをよく見るとさっきまで無かったはずの項目が増えている。


【マップ】


「追加された?」


 恐る恐るタップしてみるとウィンドウに簡素な図が表示される。


 それは俺のいるマンションの間取りだった。階段、エレベーター、各部屋の配置。


 自分の部屋の位置まで、正確すぎるほど正確に再現されている。


 だが、全部が見える訳ではないようで俺がいるところからある程度の位置になるとそこでバッサリとマップが途切れていた。


 どうやら俺の居る位置からある程度のところまで表示してくれるようだ。


 そしてそのマップには赤い点があった。


 赤い点は一つ、廊下の中央付近をゆっくりと動いている。


「……」


 俺は確かめるようにドアスコープのほうを見る。

 はらわたを引きずる感染者がいた位置にその点がある。


 視線をずらすと、今度は別の色が目に入った。


 それは青い点。


 俺はこのウィンドウに現れる情報があの俺が七日前にやった謎のゲームと同じことに気づく。


 となるとこの青い点は武器や食料品などのプレイヤーを助けるアイテムだ。


 そして、その青い点は俺の部屋のクローゼットの中にあった。あのゲームと同じと考えると今の俺にとってはメリットしかないと考えて早速、クローゼットの中を見る。


 中にあったのは、絶対に俺の部屋にあるはずのないものだった。


「……銃?」


 恐る恐る手に取ると、ずしりとした重みが腕に伝わる。作り物じゃない。

 その瞬間、目の前のウィンドウが反応した。


【ハンドガンを取得しました:残弾数15】


 俺は思わず息を飲んだ。全部、あのゲームと同じだ。


「……意味分かんねぇ。けどこれは使えるな」


 俺は感染者が世界で蔓延している状況、ゲームみたいな能力が俺に備わったことなど抱えた問題が多すぎてどうにかなりそうだったが、このゲームみたいな能力はこの過酷な世界で生きるために役に立ちそうだと俺は気持ちを切り替えた。


――

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