ヤンデレシスターを拾ってしまった

@xxkeyxx

第1話

 季節は終わりの始まり。秋だ。

 名月を楽しめる頃、虫たちの鳴き声が飛び交う中、芯に静けさを帯びた田舎道を歩く。田舎道の先、十字路の横にある教会はあまり有名じゃなかった。自分自身、人通りも少なくて、ここなら落ち着けると思って選んだルートだ。

 これから通る教会について、別に興味がないというわけじゃないが、教会はどんなところかも分からなくても、気にはならなかった。俺は信仰心は持ち合わせてなかったから。

 そんな教会に通りかかってみたが、人が居た。綺麗な女の子だ。

 教会のシスター? 礼服に身をまとい俺を見ている。

 その子の。月が照らす砂金に凪ぐ髪は暗い蒼をまとっている。

 お互いに見つめて数十秒、彼女は夜特有の挨拶をしたので、「こんばんわ」と俺は返した。

「今日は月が綺麗ですね」

 俺はそう言った。昔、高校の教科書に載っていたっけ......? 一体どういう経緯で載っていたんだ?

「それはどういう意味でしょう?」

 彼女は上目遣いで問い返す。俺には好意なんてないだろうが、可愛いでありたいのだろう。

「言葉通りの意味です。今日は満月だから」

「ああ。そうなんだ。私、勘違いしてたみたい。そういうところあるから」

 俺は疑問符が頭に浮かんだ。結局のところ、アンタはどういう意味で解釈したのだと。

 二人で空を見上げる、変哲のない街で見上げる、いつもと変わらない空。それが綺麗と認識できるのはなぜだろう?

 二人、だからか......?

 まあお互い別の世界の人間だ。このままサヨナラする筈。

「これからどうすればいいのでしょう?」

 女の子がポツンと呟いた。

「教会に戻ればいいのでは?」

 事情を知らないので、思ったことをそのまま言うと、彼女は黙る。少し経った後、シスターは話してくれた。

「役立たず、と言われて追放されてしまいました。恥ずかしい話、私、聖書も読めないのです」

 聖書、か。新約と旧約。俺には疎遠な本だ。

「何処に行けばいいか分からず、途方に暮れていました。もし、迷惑でなければ貴方の家に泊めさせてくれないでしょうか?」

 俺は一瞬躊躇う。何か雰囲気が胡散臭い。

「俺が貴方を泊める義理はない」

「そう、ですよね。私はこのまま死ぬしかないんだ」

「死ぬ......?」

「私は生まれたときから、取り柄もなくて、弱くて、馬鹿で、孤独で、失敗ばかりしていて」

 それは感情の吐露だった。

 よくある話だと割り切る。しかし、俺と彼女の弱音には孤独とか、共通点があった。よくある話という因果のせいだろうか。

 俺はその時、なぜか彼女を一つの物差しで測ることができなくなっていた。

「でも、貴方に話したら気持ちの整理が出来たかもしれないです」

 涙を流していた。それがどこか放っておけない。

 彼女はもうすぐどこかへ行ってしまう。それを止めたくて。

「待ってください。シスター。夜も遅いです。よければ、家で話しませんか?」

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