潮騒に恋した夜

第1話

「エインヘリャルの宴」

ヴァルハラ王国では騎士と淑女の出会いの場も提供していた。いつ命が消えてもおかしくない騎士という仕事柄、同国の紳士淑女からは避けられる職業であるのも事実だった。

騎士団員同士で結婚することもあるが、女性騎士が圧倒的に少なく、痴情のもつれにより、恋敵を殺害してしまう事件も過去にはあった。


一人でも戦力を失いたくない各国の王や長は、半年に1度、1週間、騎士と淑女集めてパーティーを開くことにした。

このパーティーがきっかけで良縁に恵まれた者も多く、人気の催しでもあった。


「カイラさん、お酒はほどほどにして下さいよ?」

「いーじゃん、いーじゃん!ヴァルハラのワインはうまいんだからさ〜!」

カイラ・ブロッサム、30歳。

自由を愛する海洋国家リベルタスの傭兵団団長。暇さえあれば海で泳いでいるため、肌はこんがりと焼けている。

酒好きでいつもヘラヘラとしている自由人。


だが彼女の戦い方は、小麦色の肌にうっすらと透明な水の膜を纏う。

この水膜は防御膜として機能するだけでなく、拳や足に集中させることで、打撃の瞬間に「水圧による衝撃波」追加。ただのパンチが、大砲の直撃のような破壊力に変わる。

だからこそ、リベルタス一の実力を持ち、傭兵団のリーダー職についているが、公務は基本部下に押し付け、自身は騎士の勧誘の名目の元、自国や近隣諸国をフラフラしている。


「あ゛ー!あっちぃな!ちょっと休むか〜」

ワインを2本空けた所で、カイラは休憩できる部屋を探した。

「おっ、ここなら誰もいないんじゃん?」

部屋の中に人の気配を感じなかったカイラは、乱暴に扉を開けた。

「誰だ...?」

だが休憩室のソファには既に先客がいた。

漆黒のジャケットに身を包み、シャツのボタンを一つだけ緩めて、ひっそりとお酒を飲んでいたのは、軍事国家のアイゼンガルド連邦、軍事部の総司令官、グスタフ・フラムだった。


「あら、先客がいたの気づかなかった〜!

丁度いいわ、一緒に飲も〜!」

カイラは気配を読み取れなかったグスタフに興味を持った。エインヘリャルの宴は、戦いの場所ではないにも関わらず、長剣を側に置きながらウィスキーを飲んでいる。

そろそろ結婚相手を探せ、上司命令で宴に参加した、そんな印象を受けたカイラ。

深く詮索はせず、ただグラスを合わせて、チンっと音を鳴らした。


「リベルタスのカイラ・ブロッサムだったか」

「あら〜?あたしのこと知ってた〜?」

ウィスキーを口に含んだ後、グスタフは静かな声でカイラの名前を呼んだ。

「私の部下がファンでな、あなたの武勇伝を聞いている」

「あらやだ!アイゼンガルドにまであたしのこと知られていたなんて!」

カイラはふざけた声をあげて、恥ずかしい!と初心なフリをして見せた。

グスタフの装いから、どこの国の人間かすぐに分かった。軍事国家ならではの、政略結婚も多い中...きっとこの青年は、女性と話すことさえままならず、縁談がぽしゃっていたのでは?

と想像してしまう。


「嫁さん探しはどうよ?」

「...モンスターを倒すよりも難しい」

「あっはっは!あんたにはそうだろうねぇ。でも、良家のお嬢さんとか縁談が来てるだろう?」

カイラはソファの上であぐらの姿勢を取り、グスタフの顔を下から覗いて見た。

カイラの強気そうな瞳、柔らかそうな唇。たった一人でモンスターの群れを津波を起こすような魔法で全滅させた、れっきとした実力のある人物。

屈強な男も簡単にやり込める実力を持っているのに、見下ろした先にある豊満な胸...

目の前にいる戦神ではない、一人の女性姿にグスタフの股間は疼いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る