まんがみち!~藤子BCDE不二雄の青春~

阿弥陀乃トンマージ

約束

「うわあ、すごい上手だねえ……!」

 とある公園のベンチで、男の子が女の子が描いた絵を見て、感嘆とした声をあげる。

「ふふっ……」

 女の子が微笑む。

「本当にすごいよ……!」

「すごいのはふーくんだよ」

「え?」

 ふーくんと呼ばれた男の子が顔を上げる。女の子は膝の上に広げていたノートを縦に持ち直して、ふーくんに見せる。

「ふーくんの書いた、”ねえむ”?の通りに描いてみたら、ちゃんとマンガになったもん。……こんなの魔法だよ!」

 女の子は鉛筆で、コマ割りされたノートを指し示す。

「へへっ……」

 ふーくんは照れくさそうに自らの後頭部をさする。やや間を置いてから、女の子が口を開く。

「……大人になったらね、マンガ家になるのが夢なの」

「ええ?」

「……無理だと思うけれど……」

 女の子が顔を俯かせる。

「ううん、そんなことないよ。とっても絵が上手だもの」

「絵は得意だけれど、おはなしを考えるのが難しくて……」

「……ぼくがいるよ」

「え?」

 女の子が顔を上げる。

「ぼくが”げんさくしゃ”になって、おはなしをいっぱい考えるよ!」

「げんさくしゃ……」

「そう、”ゆにっと”を組もう!」

「ゆにっと……」

「ゆにっと名は『シン・藤子不二雄』!」

「シン・藤子不二雄……」

「ぼくは休みが終わったら、東京に帰らなきゃいけないけれど……大きくなったら、絶対に富山に戻ってくる! 約束だ!」

 ふーくんが右手の小指を立てる。

「……うん! 約束!」

 女の子も右手の小指を立てて、ふーくんの小指と絡ませる。二人は小指をしっかりと握り合わせる。


「次は富山~富山~」

「うん……」

 高校生くらいの男子が目をゆっくりと開く。立ち上がってトランクを荷台から下ろす。新幹線が停車する。男子はホームに降り立ち、案内板とスマートフォンを交互に確認しながら駅を出て、タクシーに乗り込む。しばらく走った後、ある学校に停車し、タクシーの運転手が男子に告げる。

「着きましたよ、北陸日本海学園です」

「ありがとうございます……」

 清算を済ませ、男子はタクシーを降り、学園の正門を通って、校舎に入る。そして職員室に向かった。職員室では女性教諭が待っており、挨拶などを交わす。

「それじゃあ、教室に案内するわね」

「はい」

 女性教諭と男子は職員室の上の階にある教室に向かい、中に入る。男子の姿を見て、生徒たちがざわめく。黒板に男子の名前を書いた女性教諭が振り返って告げる。

「はい、この2年F組に新しい仲間が加わります。皆さん、富山のことを色々と教えてあげて下さい。じゃあ、自己紹介を……」

 女性教諭の促しに応じ、男子が口を開く。

藤本不二雄ふじもとふじおです。富山は親戚が住んでいた関係で、何度か来たことがあります。十年前に結んだ約束を守る為に、この学園に転入してきました。どうぞよろしくお願いします……!」

 不二雄と名乗った男子は頭を下げる。

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