第17話
「答えになっているか分からないけど」と一言挟んで続ける。
「具体的に何かするっていうか、……それ自体が関係を約束することだと思うんです。大切だって証明してもらえたら、それは奪われたり崩れたりしない糧で、ずっと変わらない約束になるんじゃないでしょうか……長岡さんは、どうですか」
胸中を明かしていることに気付いて、照れ隠すつもりで話の矛先をわずかに逸らす。ゆるく身を乗り出すような格好で傍らに問いかけた。
長岡の視線は足元に、朝陽を弾いているフロアに注がれて動かない。真剣な横顔を晒したまま黙っている彼は、息を潜めた声色で「分からない」と呟いて目を伏せる。明かりを避けるように睫毛がふるえる様は、水鳥が羽根を折りたたむ仕草を思わせた。
「縁がないことすぎる。だから頭でうまく捌けない」
そう言った彼は、いや、ちがう、と自身に対して口を挟むと険しい顔で姿勢を崩す。その片手で鼻先から目元を不器用に覆いながら。
「そういう状態の自分が想像できない。君にはできるだけ穏やかで優しい場所にいて欲しいと思ってるけど、そこに自分がいていいと思えない。どこまで許されているのか考えられないし、何を基準に考えたらいいのかわからない。……考えていいことじゃない」
長岡の目元から力が抜けて、伏せがちになった視線からは無防備さが漂う。
「どれくらい幸せになっていいのか判断できないんだ。何を、どのくらい望んでいいのか分からなくて……いや、制限されてる立場でありながら何かを期待するなんて、それ自体が今までの行いに対する裏切りに思えてくる」
泉と目を合わせた長岡は申し訳なさそうに笑うと「無理だ。苦手なんだこういうのは」と早口に言った。
呼吸が浅い。喉が震えて、下睫毛を濡らして涙がふちまで溢れている。そのことに彼自身気付いていないようだった。
「そういう真っ直ぐなところも好きです、でも」
泉は無防備な長岡の手に指先を滑らす。
「言ったじゃないですか。亡くなった人のことばかり考えていたら生きていけないですよ」
言いながら泉は、自分が故人を冒涜していることにならないか、どうしても考えずにはいられなかった。長岡の言い分は分かる。それでも彼の過去すら愛したいと思う気持ちすら罪なのだろうか。
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