処刑台の少女を救ったので、俺の命を燃料に帝国を蹂躙する ~「燃えカス」と蔑まれた重装歩兵、過剰な生命力で無双する~

ユニ

第1話 灰色の日常

 鉄錆と、魂の焦げる甘ったるい臭いが充満していた。

 鋼鉄帝国アルゴル、第九魔導研究所。地下深くにある魔導炉管理区画。

 天井を這う無数の太いパイプは、まるで巨大な生物の臓腑のようだ。ドクン、ドクンと脈打ちながら、その全てが中央に鎮座する『魔導炉』へと繋がっている。炉は時折、飢えた獣の唸り声のような重低音を響かせ、青白い燐光を明滅させていた。


「おい、出力が落ちてるぞ! 次の『薪』をくべろ!」


 現場監督の怒号が飛ぶ。

 鎖に繋がれた捕虜たちが、虚ろな目で炉の投入口へと引きずられていく。彼らが炉の闇へ突き落とされると、断末魔の絶叫と共に炉の輝きが爆発的に増し、施設の照明が一斉に明度を上げた。

 ここでは命は尊いものではない。帝国という鋼鉄の巨人を動かすための単なる燃料――『魂気(アニマ)』のリソースに過ぎないのだ。

 その惨劇を、直立不動で見守る男がいた。

 イグニス。帝国軍の重装歩兵である。

 身の丈ほどある大剣を背負い、分厚いプレートアーマーに身を包んでいる。兜の奥の瞳は冷え切っているが、その全身からは陽炎のような熱気が立ち上っていた。

 生まれつきの『魂気過剰体質』。彼の体は常に高熱を発しており、その余剰エネルギーが周囲の空気を歪ませている――と、軍の医療記録には記されている。

 だが、真実は少し違うことをイグニス自身だけが感じ取っていた。

 炉が人の命を喰らい、青白く輝いた瞬間。イグニスの心臓が、まるで呼応するかのように激しく打ち鳴らされたのだ。

 ガントレットに覆われた指先が、微かに震える。

 熱いのではない。――“渇いて”いるのだ。

 目の前で奔流する膨大なエネルギーを見て、彼の細胞は恐怖するどころか、それを「飲み干したい」と訴えるような奇妙な飢餓感を訴えていた。この分厚い鎧は、外敵から身を守るための防具ではなく、内側から溢れ出そうとする「何か」を人型に押し留めるための拘束具(ケージ)なのかもしれない。


「……化物め」


 イグニスは誰にも聞こえない声で吐き捨てた。

 それは人を喰らう炉に向けた言葉か、それとも共鳴する己の肉体に向けたものか。


「ちッ……くだらねえ」


 自分もいつか、戦えなくなればあの炉に投げ込まれる。その未来が見えているからこそ、彼は感情を殺し、ただの「機能」として立っていた。

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