第35話 そして誓いへ……
「うぐ、ううぅぅ、うきゅうぅ……」
雛沢さんのフルチャージ。
これは危険信号だ。
「カノっ、実弦っ、耳塞いでッ!!」
「「ッ!?」」
「雛沢さんが――泣くッ!」
状況を理解したカノと実弦は僕に合わせて耳を塞いだ。
耳に手を当てて物陰に避難する僕ら。奏多だけが意味を理解していない。
「お、お兄さん達、何を……?」
奏多の問いかけを最後に――空気が、歪んだ。
「びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェん!!!!!!!!」
ステンドグラス粉砕。揺れるシャンデリア。落ちる十字架。
教会全体が雛沢さんの絶叫で震えた。
「こ、これは!」
「雛沢さんのフルバースト癇癪。前代未聞の最大火力だ!」
「なんて破壊力っ! 鼓膜破壊ASMRの数倍は下らない!」
耳を塞いでいてもこの破壊力。
赤ちゃん系ギャルの声量は伊達じゃない!
「お、音波攻撃!? み、みみっ、が――――」
ドサッと少年はその場に転がった。
「奏多が倒れた!」
「耳を塞ぐのが遅れたみたい」
「それに小学生は高校生より高い音を聞き取れる。きっとダメージは僕ら以上なんだ!」
それでも僕らだってヤング世代。
この高周波音を聞き続けるのは拷問レベルだ。内臓だってブルブル震えてる。
「おんぎゃああああ! ほんぎゃぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
雛沢さん大号泣は止む気配がない。
僕らの鼓膜が破れるが先か、教会が崩落するのが先か……
※
――雛沢さんの大絶叫が止んで、通常の泣き声に戻ってから三十分後。
僕とカノは並んで雛沢さんを抱えた。
腕の中で抱っこされたギャルはだいぶ泣き止んできたみたいだ。
「植井陽太きゅん、結奈月カノちん……」
神父姿の実弦が尋ねる。
「貴方達は雛沢桃梨さんを、赤ちゃんとして育てることを誓いますか?」
「「……ち、誓います」」
試行錯誤の末に僕達は発見した。
『家族を増やさないと出られない教会』の攻略法。
「ほんぎゃあ! ほんぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
――
これだったら問題あるまいよ奏多。
失神して何も聞こえてないだろうけど。
どのみちこの赤ちゃん化、どうにかしなければ雛沢さんの未来が大変なことになる。
「陽太……」
「なんです、カノさん」
「……責任持って、二人で育ててこうね」
「うん、そうだね。僕達の赤ちゃん……」
自称幼馴染とまさか、養子を育てることになるなんて。
あははー、人生色々あるなー。
……順当にニセの関係性が構築されていってるな。
「二人とも、ファイトだよぉー……」
「なに部外者ぶってるの潤川君?」
「え?」
「形式上僕らを親にしてるだけで、実弦も保護者だよ」
「なんで僕も巻き添え!?」
「だってパパとママは一人ずつしか枠ないし」
「なんでそこは譲らないのさ! あと僕が入るなら枠どこよ!」
「実弦は叔父さんで良くない?」
「オジサン呼びやめて!!」
なんでも良いけど君も共犯だ実弦。逃がしはしないよ?
「ところでさ、このまま帰れる?」
実弦の質問でまた場の空気が凍った。
「……あのガキの事だから」
「教会の外にトラップあってもおかしくないよね」
「「「……」」」
「ほえぇ、ふんぎゃあ……!」
絶句。桃梨ベビーの泣き声だけが響いた。
これは救助隊が来るまで教会で待つか、一か八かで外に出てみるか――――
「その誓い、ちょっと待ったー!!」
とっくに誓いなんて言い終わってる頃にその人は乱入してきた。
無数の爆発音を響かせ、最後には教会の扉を蹴破る。
「状況はよく分からんが、まあ良い」
教会に差し込む光。爆風で靡く漆黒のロングヘア。
その中で悠然と立つ女性はいつになく凛とした佇まいだった。
「女の子が泣いてるところに、アタシはやってくる……涙の匂いも好物だからね」
砂勝高校随一の変態、じゃなくて最強のワイルドカード。
「お嬢さん達を救えば良いんだな? 植井くん」
羊崎会長、降臨ッ――!
か、会長ォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
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