第2話 ミチビキの針 ハリの導き

 奇妙なマスクをつけた男は1人の少年の首にナイフを突きつけ、まるで今から他人の作った砂の城を蹴り壊すのが楽しみで堪らない少年のように笑った。


 「月並みな脅し文句やけど、大人しくその針を返さないとこの子が死ぬよ。このタコども。」


 リーダーは針が抜けて肉が溶け、骨になった犬とマスク男、ナイフを突きつけられプルプル震える少年を順に見た。震え過ぎてマスク男の腕まで震えている。

 

 「イハ?これは紳士でない真似をする輩ですな!EMLちゃん、見てはなりませんぞ!今からこのクズをメタメタにしてお星様にしてやりますぞ。」

 「動くなっつてんだろこのタコ!大事なことは二度言われないって知らねーのか?」


 EMLちゃんがくるりと後ろを向いたのを確認し、腕を回しながら前に出るヒゲダンをリーダーは片手で静止した。


 「紳士というなら、まずはあの少年を助けないとね。まあ、ここはおじさんに任せてみんなは大人しくしててね。」

 「話がわかるようで助かるね。じゃあその赤髪の男、リーダーだっけ?針を持ってここまで来い。他の奴らはそこで待て。」


 マスク男が壁の向こうに降りたのを、リーダーは追う。2人の姿が壁の向こうに消えた後、すぐさまマスク男が壁のうえによじ登ってきた。


 「…気が変わった、やっぱお前らタコどもも俺についてこい。」


 壁の向こうに姿を消したマスク男を残りの3人は追った。壁の向こうにはすでにリーダーの姿は無く、マスク男が走っていくのが見える。


 「だっっっっっっっっる、走りたくないんですけど。ヒゲダンちゃん、おんぶして♡」

 「むむっ!EMLちゃんと仲良くできるなら良いですぞ!それで良いか?EMLちゃん?」


 EMLちゃんはヒゲダンの指輪の糸の動きに合わせてこくりと頷く。ヒゲダンは背中に2人を乗せて、走り出した。



 少しして、壁のところにファーがついたオーバーサイズのフード付きコートを着た人間が現れた。


 「はひー、あいつら足速すぎ、走れないようにしてやろうか?」


 四人組のポケットの小石と同じ声をしたその人間は、息を整えて……………………。首を傾げた。


 「おかしいな?あいつらなんでリーダーを置いて、走ってんだ?じゃあ今、リーダーと一緒にいるやつは誰だ?」



リーダーはマンホールの下に広がる細い下水道にいた。


 「どうしたリーダー?この程度でへばっちゃ下のやつがかわいそうだぜ?」


 反響する声の中、何人にも増えたマスク男と戦っていた。すでに何人かに攻撃をしていたが、煙のように霧散して手応えがない。


 「無駄なことを、幻覚を操る幹部である俺に叶うわけないだろこのタコ!」


 耳元で囁かれたリーダーは反射的に声の元を攻撃する。


 「ハズレ〜♡」

 

 同時に意図しない方向から飛んできた飛んできた拳が頬を撃ち抜く。


 「やめて!痛いのは嫌!これ以上いじめないで!降参するから!」


 頭を抱え、狭い通路の行き止まりに小さく縮こまったリーダーを見てマスク男はにたりと笑う。


 「やめねーよこのタコ!」

 「来ないで!」


 ポケットから取り出したペンをメチャクチャに振り回す。ペンは壁に無数の線を引くだけで何の助けにもならない。その姿が怯えきって抵抗の意思すらないネズミを見た猫のようにマスク男の嗜虐心を膨らませた。

 マスク男は力ずくでリーダーの首を締め上げ、地面に押し付ける。


 「俺はなあ、てめえみたいな雑魚のくせに偉そうなやつをぐちゃぐちゃにしてやるのが大好きなんだよ!このタコ!」


 リーダーは呻き声を上げながら、カランと針を落とした。


 「なんだ?今更命乞いか?針を寄越してももう誰も助けてくれねーよ。」


 マスク男は今にもよだれを垂らしそうだ。幻覚のマスク男が1人、また1人と消えていき、とうとう首を絞めている1人だけになった時………


 「……ところでよお、変態マスクさんよお、その能力に何か名前でもあんのか?」


 リーダーは苦しそうにマスク男の手を掴むのを止めて壁に手を突き、まるで空気を入れられて持ち上がる浮き輪のように上体を少し持ち上げた。


 「何だ?急にイキがってこのタコ!針まで落としたくせに!」

 「落とした?いいや違うね、これは置いたんだ。今から起こる惨劇には邪魔だからな。」

 「惨劇?首を絞められて汚く死んでいくお前のことか?」

 「何言ってる?この絞められてるのがいいんじゃないか。逆にな!お前は両手が塞がって、おまけに幻覚も消えたこの状況が!」


 壁にペンで引かれた線が赤く光り始める。

 マスク男が、そこが相手ではなく、間抜けな自分の処刑場であることに気づくのは遅すぎた。


 「能力ってのはな、使う時に名前を言うのが重要なんだ。これが最も重要。能力が喜ぶし、何より万力のような力を込められるからな!」


 リーダーの拳が赤く輝く線の上に重ねられる。

 

 「レッドライン《38度線》!!!俺の能力の名前だぜ、覚えときな。最も聞こえてたらだが。」


 赤く輝く線に沿って繰り出された、プロボクサーも、アメリカ人も震え上がる最強日本人プロ野球選手も、目で追えない速度の

無数のパンチはマスク男の意識を一瞬で刈り取った。


 

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