納戸神の呪い——見張られた密室と殺人を犯した死者

ZZ・倶舎那

プロローグ

0-0

 四畳半の茶室のはずなのに、二畳ほどの広さしかないように見える。


 そこにビア樽のような巨漢と和服の老婆の死体が転がっているのだから、文字通り足の踏み場もない。

 死体に触れずにいるには、隅のわずかな空間に立って居竦いすくんでいなければならない。


 唯一の出口のにじり口は、巨漢の尻で塞がれている。

 なんとかこの巨躯を動かさないと永久にここから出られないが、このぶよぶよした体に触れるかと思うと悪寒が走る。

 それに、この体勢では死体に手を伸ばすこともできない。


 足で押すしかないかと思ったその時、巨漢がむっくりと立ち上がった。

 腐敗が進んで体内にガスが充満したらしい。

 巨漢には天井が低すぎるため、首があらぬ向きに曲がっている。膨れ上がった左腕も、奇妙な捩(ねじ)れ方をしている。


 今なら出られるかもしれない。

 そう思って、身を屈めようとしたが、ぎょっとして壁に背を貼りつけた。

 巨漢の右手に握られていたピストルの銃口が、私の方を向いているのだ。


 振り返ると、老婆も立ち上がっていた。

 その右手には包丁が握られている。




「うわっ」

 と叫んだ自分の声で目が覚めた。

 寝汗でパジャマがじっとりと濡れている。

 あの事件以来、決まって寝入りばなにこの夢を見るようになった。

 いっそに話して謎を解いてもらおうか、ふとそんなことを思った。

 彼女ならこの呪縛から解放してくれるかもしれない。


「いやいや、それはない。馬鹿げている」

 私は苦笑して頭を掻いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る