平凡な世界の交差点

狸林始

とある狩人の話

そのギルドは、どこにでもある。


 街道沿いで、

 村と村の間にあり、

 魔獣が出る限り、なくならない。


 狩人は、掲示板の前に立っていた。


 紙は多い。

 この辺りは、大型の依頼が多い地域だ。


 二人組が、先に立っている。


 一人は、まだ若い。

 茶色の髪で、軽装。

 狩人というより、無鉄砲な旅人に見える。


 もう一人は、背が高く、耳が長い。

 エルダーだったか、そんな種族を聞いたことがある。


 二人で、紙を見ている。


 狩人は、自分の仲間を思い浮かべた。

 四人。

 これ以上、増やす気はない。


 安全に終わらせられる依頼を探す。


 だが――


 青年が、一枚の紙を剥がした。


 赤い印。


 危険度が高い依頼だ。

 その上の紫は、今は張り出されていない。


 反射的に、狩人は声をかけていた。


「他に、いるのか」


「いねぇ」


 即答だった。


 青年の隣に、エルダーの男が立つ。

 何も言わない。


 二人だけ。


 どう見ても、人手が足りない。


 狩人は、一瞬、言葉を探した。


 だが、やめた。


 無謀なやつは、死ぬ。

 それだけだ。


 忠告を聞くなら、最初から聞く顔をしている。


 二人は、受付へ向かっていった。


 狩人は、別の依頼を取る。


 その日の仕事は、問題なく終わった。


 夕方、戻ってきたとき――


 掲示板の紙が、なくなっていた。


 依頼中を示す札も、

 失敗を示す赤い札も、

 どちらもない。


 完了。


 狩人は、しばらく掲示板を見ていた。


 エルダーと、無謀な青年。


 どちらが前に出たのか。

 どちらが囮になったのか。


 想像しても、意味はない。


 狩人は、武器を背負い直す。


 明日も、狩りはある。


 生き残った者だけが、次の依頼を取る。


 それが、狩人の世界だ。

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