第4話『月曜日 ~1週目 ①~』

 はっと目を覚ませば、自分の部屋だった。この安心感のあるなみの造りは、間違いない。

ああ、やっぱり夢だった。本当に良かった。──それにしても。


(あれってわたしの願望だったの? かっこいい人たちに求婚されたい、って……)


そんなまさかね、と首を振る。

もちろん恋をしたいって気持ちはコッソリあるけど、難しいのは分かってる。


「結婚する気がないのに、恋なんて……。きっと相手を傷つけちゃうよ」


口に出せば、ズーンと重苦しい気持ちになって。朝から駄目だなあって気を取り直せば、


「…………日和ひより、おはよう」


「ヒッ……!?」


大事にするとか何とか言ってた男の人が、着流し姿で……ソファに背中を預けていた。

青みがかった灰色の生地は気品があって、わたしの格安家具とまるでマッチしていない。

まさか他の六人もいるのかと焦ったけど、ここはワンルーム。

当然他にはいないようで、胸をなでおろした。


「……って違うよ! それでも全然安心できないよ!」


「…………あ、ちょっと大きい声。日和、元気になったみたい」


「!」


たしかに、昨日の夜はあんなに体が重かったのに。不思議なくらいシャッキリしてる。

時刻はまだ朝の六時。

大学に行くまで時間があるので、冷静に話をしてみようと思う。

……だって、早朝から警察を呼んだら、マンションの皆さんに迷惑かけてしまうから。

念のために緊急通報できるよう、スマホは握りしめておく。


ひとまずは穏便おんびんに、そして断固とした意志を見せないと!そう意気込んで口火を切る。


「伺ってもよろしいでしょうか──月読つくよみさんとおっしゃいましたよね」


「…………うん」


「改めまして……わたしは蒼野日和あおのひよりです」


知ってるよ?と言わんばかりに首を傾けられた。

そう、他の人も私の名前を呼んでいて……知ってるのが本来おかしいと思うの。


「ゆうべ、助けて下さったのは感謝します。でも、困っているので……出ていって、いただけないでしょうか」


「………………………」


すっごく悲しそうな目をされた。

位置関係から上目遣いをされて、年上っぽいし背も高いはずなのに……なんだか子犬みたい。

見た目が良いって、武器なんだなあと実感した。どうしても気持ち悪いとは、思えない。

で、でも。優柔不断で気弱な性格から、変わりたいから。


◆◆◆◆


 無言のままちっとも動こうとしないので、心の中でマンションの皆さんにお詫びしながら110番しようと決めた。


「け、警察よびますから」


「怖がらないで」


ソファから立ち上がって、ふんわりと両手を取られた。月読さんは、ぽつぽつしゃべる。


「…………日和がいいって言うまで、無茶なことしない。それに、おれ──他のヤツもだけど。

 名前と一緒に『大嫌い』って言われたら、その日は強制送還されるから。危なくないよ」


「え、えっと、じゃあ『月読さん大きら──』」


そこまで言いかけると、すがるような声でささやかれた。


「お願い待って。悪いことしないから、そばにいさせて? 今日……せっかくの月曜日」


月曜日って、せっかくって言うのかな……。そう思っているのが分かったらしい。


「…………えっとね。ロキが言ってたでしょう? 曜日制にしたって」


「え? よく分かりません」


曜日制? なんて言ってたっけ。頭が記憶することを拒絶していたくだりだから。


「…………これから曜日ごとの担当が、日和と会えることになったんだ」


「それは、つまり」


「…………シフト制、で合ってるのかな?」


たしかにわたし。マリちゃんに「シフト自由に決めてもらっていい」みたいなこと、言ったけど! 

それは、こういう時まで適用していいってわけじゃなくて……!


「言葉、違ったっけ?」


「…………合ってると思います」


表現の問題ってわけでも、なくて。

助けて、マリちゃん!

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