第25話 手っ取り早い補強

「諸君に告ぐ。我々の愛した祖国はヴィシーに塗られた。このマダガスカル島まで追いやられている。しかし、反抗の火が消えたわけではない。革命の炎が自由の炎は一層も強まった。これは自由のための準備である」


 フランスが消えた。独仏休戦協定が結ばれる。フランス軍の武装解除と降伏が決まった。大半が降伏を選ぶ中で一部は些細な抵抗を続けている。イギリスに脱出した亡命政府に合流できずとも、偉大なるフランスの意地を見せつけた。しかし、圧倒的な火力により粉砕される。その後はヴィシー政府という傀儡政権が樹立した。旧フランス軍はヴィシー・フランス軍と変わる。日英と亡命仏の連合国には協力どころか敵対すると言わんばかりだった。彼らが生きるためにやむを得ないが敵となった以上は撃滅の対象となる。


「これより大日本帝国海軍に合流して亡命自由フランス艦隊と変わる。リシュリューは自由フランスの旗と大日本の旗と共にある。不平不満がある者は退艦して構わない。どうせ未完成だ」


 ドイツの傀儡に下るかとレジスタンスと変わった。小規模な歩兵から大規模な戦艦まで反ナチスと自由フランスの旗を掲げる。しかし、単独では何もかもが不足した。人も火器も弾薬も食料も全てが足りない。海軍のレジスタンスはいち早く脱出に成功した。艦は由緒正しきフランスの旗を掲げて更なる逃避行である。ナチスに歯向かう意思を明確にした。Uボートの襲撃を受ける。さらに、日和見を恐れた連合国から攻撃を受けた。新たな拠点を求めて喜望峰を超えてマダガスカル島まで。


「マダガスカル島も危うい。日本からの迎えに応じ異国で過ごすことになった。それでも革命は終わらない。愛する祖国を奪還するまでは止まらない」


 フランス海軍の主戦力であるダンケルク級戦艦の『ダンケルク』『ストラスブール』とリシュリュー戦艦『リシュリュー』『ジャンバール』を確認した。彼女たちはアフリカ西岸沖で合流する。皆でマダガスカル島を目指した。マダガスカル島はフランス領である。ヴィシー政府の領有と主張されるが現地の行政は自由フランスを選択した。連合国に協力する姿勢を見せてイギリスの支援を取り付ける。その立地は大西洋とインド洋又は地中海への中継局を為した。艦隊が寄って補給するに適している。それ故にドイツが進出のために欲したがイギリスが一片も認めなかった。


 ダンケルク級戦艦とリシュリュー戦艦はパッとしないかもしれない。それは素人考えだ。独創的な四連装砲はイギリス戦艦と違った威圧感を振り撒く。近代的な戦艦らしく最速30ノットを発揮できた。33cmと38cmの四連装に戦艦らしい重防御、巡洋戦艦の速力と走・攻・守がハイレベルに纏まる。ここで惜しむべきはストラスブールが練度不足で性能を最大限に引き出せなかった。リシュリュー級は姉妹共に未完成で全力を出せない。仮に完成していれば勇猛果敢に打って出てナチス・ドイツと戦っていた。


「今日一日は時間を設ける。誰も処罰しない。誰も追わない。誰も引き戻さない」


 マルセル・ランドリューは勇将と知られる。彼は短期間で激動の日を過ごした。数か月前にはカレー撤退戦において艦隊の指揮を執る。駆逐艦や魚雷艇の小ぶりな艦隊だが、ドイツ軍の攻撃に身を挺して輸送船団を守り抜き、約5万の将兵が無事の脱出に成功した。それが今度はリシュリュー級2隻とダンケルク級2隻の逃亡を指揮するとはわからない。彼は一貫してナチス・ドイツには屈しないと言い続けた。多大な犠牲を支払った革命により勝ち得ている。自由を踏みにじられては死ぬに死ねなかった。


「明日からはいかなる攻撃も受け付けぬ。我々は世界の自由の希望であるのだ」


 その日に退艦する者は誰一人としていない。


【夜明け】


 マダガスカル島の夜が明けると同時に一機の水上機が滑り込んだ。その着水はフランス海兵とマダガスカル島守備隊の全員から見ても綺麗である。無駄に滑走せずに水飛沫を立てなかった。


「案内役の到着だ。フランスの礼節を以て迎えよ」


「敬礼!」


「まいったな。こりゃ」


 事前の取り決めに則る。日本海軍の艦隊から発進した水上機が直前の打ち合わせに訪れた。通信の回線を開くことが手っ取り早い。Uボートに傍受されることを恐れた。日本艦隊と仏艦隊を水上機が往復して確実性を重んじる。時間はかかっても情報が漏れることに比べて安全性に勝った。


「それは正午に出航されて洋上の合流でよろしいでしょうか」


「それでお願いしたい」


「失礼。我々は戦艦4隻だが2隻は未完成であり、2隻は熟練と言い難く、はっきり言って士気のみが存在した。お守りといっては何だが、その、どうなっているのか、お伺いしたい」


「大丈夫ですよ。理解しておりますので」


「申し訳ない」


 計画に変更はなく出航時刻を正午で再確認する。マダガスカル島にて燃料と食料、水を補給した。4隻がマダガスカル島に残っても完成は待てど暮らせど訪れない。日本の洋上ドッグに入り完成を目指した。それから日本海軍の新造艦と訓練を共にして練度向上に努める。水平たちの士気だけは立派なものだ。


 日本へ向かうに際してUボートの脅威は拭えない。ソ連海軍の潜水艦がいるかもしれなかった。ドイツがソ連に再軍備時の戦車開発を隠匿した代価にUボートを提供したと聞かれる。戦艦4隻の内2隻が未完成で練度も低い艦隊が太刀打ちできるとは思えなかった。日本海軍の迎えを疑うつもりはないが心配を盾にして探りを入れている。


「艦隊型軽巡洋艦1隻と一等駆逐艦4隻、軽空母2隻の陣容です。これに加えて基地航空隊がリレー方式で護衛します。燃料事情もありますので艦隊型高速油槽船を待機させました」


「空母まで出すのか」


「軽空母という改造空母ですよ。さすがに主力級空母は出せず…」


「いやいや、空の守りがあるだけで結構です。兵士の娯楽となります」


「安全を確認出来れば航空ショーをお見せしましょう」


 マダガスカル島近海に許可を得た上でお迎えの艦隊が待機した。港まで向かっては燃料の無駄と洋上合流を予定する。アフリカからインド洋を超えてシンガポールを経由して日本に到着を予定した。結構な長旅であるが護衛艦隊は充実している。あくまでも、戦闘ではなくてエスコートであることに留意が求められた。そして、イギリスと日本の庭を横断することも合わせた。


「旗艦は私も所属します大淀に置き、軽空母『瑞鳳』『祥鳳』、第8駆逐隊『朝潮』『大潮』『荒潮』『満潮』の顔ぶれです。瑞鳳と祥鳳も訓練を兼ねております。悪しからずご理解の程よろしくお願いいたします」


「我々は何も言えない。いや、いうべき立場にない。遠慮なく、訓練を積んでくれたまえ」


「ご協力に感謝申し上げます。対潜哨戒の飛行も良い経験となります」


「どうぞ、お気を付けて」


「ありがとうございます。それでは、洋上でお会いしましょう」


 最後の打ち合わせを終えて使者の士官は水上機に戻っていく。再び綺麗な離水を見せるが今度は見惚れている余裕がなかった。正午まで数時間しかない。数時間もあると考えるものは失格の烙印が押された。乗組員の全員を収容して物資の積み込みも終えて機材の調整を行う。未完成というが中で完成させられそうな物は作業を継続した。


 出航準備を行っていると時間はあっという間に過ぎていく。お日様が直上まで昇った頃に時計は正午を刻んだ。マダガスカル島守備隊に見送られる。リシュリューとジャンバール、ダンケルクとストラスブールはフランスに一時の別れを告げた。今度戻るときは祖国の大地を取り戻す時である。世界を燃やす独裁者どもに自由の裁きを下すのだ。


「自由に万歳!」


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る