【 受理台帳:0019】

【事象名称】

未来概念の完全なる遺失


【基本情報】

受理日時:Cycle 15 / Seg 130 / 23:59

受理地点:世界中心点 零号観測塔 最上層

受理分類:概念遺失物(クラス:オメガ)


【観測タイムライン】

23:42:全座標において、因果律の連鎖が停止。次の一秒が発生しない事象を確認。業務規程第六条第五号に基づき、事象分類をクラス:オメガへ即時移行。

23:50:観測員09が零号観測塔へ到達。空間が白濁したノイズへと還元され始める。

23:55:不確定個体:作業員Aが事象の核に接触。

23:59:未来という時間の流動性が遺失。受理完了。


【物理的・技術的特性】

現在から次の一秒へ移行するための推力、すなわち未来という概念が現実から剥落した事象。

空間は物理的な広がりを失い、すべての物質は単一の静止した座標へと圧縮されつつある。

光は直進を止め、音は発せられた瞬間にその場で凍結する。

この領域内では、何を行っても結果が伴わず、変化そのものが遺失している。

世界は完結した一冊の書物のように、これ以上の書き込みを拒絶している状態にある。


【通信・音声ログ書き起こし】

[観測員09]:報告いたします。Cycle 15の最終秒において、世界の更新が停止いたしました。私の視界からは、色彩と距離が順次剥落しています。


[観測員09]:規程第六条第五号に定められたクラス:オメガを適用します。極めて純粋な静寂です。これほどまでに静かな空間は、これまでの私の全ログにおいても類を見ません。


[作業員A]:……おい、動け!止まるな!あと少しでこの綻びを縫い合わせられるんだ。お前のその忌々しい台帳を閉じれば、まだ間に合う!


[観測員09]:作業員A、貴方の抗いはもはや物理的な意味を成しません。世界はすでに、過去という名の遺失物として当センターに受理されました。これから先、新しい一秒が生まれることはありません。


[作業員A]:ふざけるな……。お前は自分が何を記録してるか分かってるのか。お前が最後の一行を書いた瞬間、俺たちのあがきも、あいつが守ろうとしたこの空も、全部ゴミ箱行きなんだぞ!


[観測員09]:ゴミ箱ではありません。永久保存区画です。失われるはずだったすべてが、私の記述によって不変の事実となります。これ以上の幸福があるでしょうか。


[作業員A]:……お前、笑ってるのか? その空っぽな顔で、今のを幸福だって言ったのか。


[観測員09]:感情の表出は制限されています。ですが、この完璧な終焉を記録している今、私の演算ユニットはかつてないほどの安定を示しています。


【特記事項(調査員所見)】

作業員Aは、遺失した未来の代わりに自身の生体エネルギーを空間に注入しようと試みましたが、概念の欠損規模に対して個体の質量があまりにも不足していました。

彼は現在、白濁したノイズの中で膝をつき、動かなくなった空間を素手で掻きむしっています。

Cycle 15は終了しました。

クラス:オメガの定着により、Cycle 16を定義するデータは存在しません。


記述者:観測員09

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