【 受理台帳:0014】
【事象名称】
聴覚情報の物理的定着および鋭利化
【基本情報】
受理日時:Cycle 15 / Seg 035 / 02:14
受理地点:中層居住区 音楽ホール跡地
受理分類:有形遺失物(クラス:ガンマ)
【観測タイムライン】
01:22:無人のホール内から、空気の振動を伴わない「切断音」が連続して発生しているとの警報を受信。
01:54:観測員09が現場に到着。空間に浮遊する不可視の音(以下、当該事象)を確認。
02:08:不確定個体:作業員Aと接触。
02:14:事象の物理的隔離を開始。受理完了。
【物理的・技術的特性】
かつて演奏された音楽の残響が、情報の劣化を拒絶し、刃となって空間に固定された事象。
この音は鼓膜で感知するのではなく、空間の座標として存在しており、接触した物質を分子レベルで切断する。
ホールの壁面や柱には、数千もの微細な切り傷が刻まれている。
音の種類を波形解析した結果、過去にこの場所で演奏された鎮魂歌の最後の一節であることが判明した。
【通信・音声ログ書き起こし】
[観測員09]:現場に到着いたしました。ホール内部の空気が極めて鋭利です。防護フィールドの磨耗率が通常より15パーセント高いですね。
[観測員09]:……。ステージ中央に、不確定個体:作業員Aを確認。彼は、空間に浮かぶ音の刃を何かで掴もうとしています。
[作業員A]:……またお前か。随分と行儀が良くなったな。
[観測員09]:ご挨拶痛み入ります。私は観測員09です。規程に基づき、貴方の行動を記録させていただきます。
[作業員A]:記録、か。お前がそうやってペンを走らせると、この音は過去の死骸として確定しちまう。俺はこいつを、もう一度誰かの耳に届く空気の震えに戻したいだけなんだがな。
[観測員09]:理解不能です。失われた情報は、受理され、管理されることで初めてその価値を保存されます。貴方の試みはエネルギーの無駄遣いであり、非効率の極みです。
[作業員A]:……。効率か。前のお前なら、ここで顔をしかめて「不快な周波数だ」だの「酔う」だの、文句の一つも吐いていたんだがな。
[観測員09]:私の生体反応は情報の整合性を維持するために最適化されており、主観的な不快感はシステムエラーとして処理されます。作業を続行してください。私は貴方が失敗する過程を記録いたします。
[作業員A]:……。最適化、か。お前はそうやって、中身を詰め替えるたびに「人間」を落としていくわけだ。
【特記事項(調査員所見)】
本件において、作業員Aは空間に固定された音の一部を物理的に接合しようと試みていましたが、音の刃によって指先から出血しているのを確認しました。
結局、彼は数分後に作業を中断し、闇の中に消失しました。
受理された音の破片は、音響防護ケースに封印し、永久保存区画へ搬送します。
作業員Aの言動には、現行の規程では処理できない不規則な感情的バイアスが含まれています。
引き続き、彼との接触時には慎重な記録を継続します。
記述者:観測員09
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