【受理台帳:0004】

【事象名称】

広域概念的疲労喪失事象


【基本情報】

・受理日時:Cycle 14 / Seg 086 / 06:12

・受理地点:海洋研究都市「トリトン-04」 居住区層

・受理分類:概念遺失物(クラス:ベータ)


【観測タイムライン】

・04:08:都市管理AIより、居住区における「総栄養摂取量」および「施設稼働エネルギー」が平常時の3倍を超過しているとの警告を受信。

・05:32:観測員09が現地に到着。全住民の約85パーセントが不眠状態で活動を継続していることを確認。

・06:07:住民の生体データを確認。肉体的な損傷は進行しているが、脳が疲労という信号を正常に処理できていない状態にあると断定。

・06:12:受理完了。


【概念的特性】

世界を構成する、休息のための負のフィードバックという概念が、当該都市の空間から脱落している事象。

住民は肉体的な限界を超えて活動を続けているが、主観的な倦怠感や休息の必要性を一切認識できない。バイタルデータのシミュレーションによれば、概念の再定着が行われない場合、48時間以内に全住民の約92パーセントが自覚症状のない心不全により同時期に死亡する予測が出ている。


【通信・音声ログ書き起こし】

[観測員09]:居住区に進入。……異様な光景だ。早朝だというのに、広場は正午のような活気に満ちている。全員が笑顔で、足取りも軽い。だが、彼らの筋肉は小刻みに震えている。


[観測員09]:生体スキャナーの結果、血中乳酸値は致死レベルに近い個体もいる。それでも彼らは作業を止めようとしない。脳から疲労というブレーキが消失している。


[観測員09]:……実に興味深いデータだ。生物がリミッターを失った際、死に至るまでの生産性がどれほど向上するのか。介入は不要。このまま都市が機能不全に陥るまでの全プロセスを詳細に記録する。


【特記事項(調査員所見)】

本件において、不確定個体:作業員Aの出現は確認されていない。

妨害者が存在しないため、概念の欠落が社会構造に与える影響を純粋な状態で観測可能である。

住民が自己の死を認識することなく活動を停止していく過程は、生命定義の再構築において極めて価値の高い記録となる。

都市全域を完全隔離し、観測を継続する。


記述者:観測員09

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