最底辺探索者キース 『まねきねこ』スキルで深層突破

塩塚 和人

第1話 最底辺探索者の始まり

ダンジョンの入口に立つキースの肩は、重く沈んでいた。

「……またか。」

彼は小さく呟き、錆びた剣を握り直す。

冒険者ランク表の最下位――つまり、誰も頼りにしない“最底辺探索者”として、今日もまた、単独でダンジョンに挑む日が始まった。


周囲の冒険者たちは、上位ランクの腕利きばかり。豪華な装備に身を包み、仲間と共に軽やかにダンジョンへ消えていく。キースのように、ぼろぼろの鎧で一人ぼっちの者など見向きもしない。

「まあ、慣れてるけどな。」

キースは苦笑しながら、心の中で自分を励ます。

“最弱でも、俺には――”

その時、背後で小さな声がした。


「にゃ……」


振り向くと、薄暗い茂みの中に、ひときわ小さな猫型のモンスターが目を光らせていた。

「……お前、誰だ?」

警戒しながらも、キースはその小さな存在に目を奪われる。


その時、耳に馴染みのない声が響いた。


【スキル発動条件を確認。】

【新スキル「まねきねこ」取得!】


「……は?」

キースは自分の耳を疑った。スキル? まねきねこ?

彼は冒険者登録証に記されたスキル欄を確認する。確かに、見慣れない文字で「まねきねこ」と書かれている。

【モンスターを仲間にする特殊スキル】

……モンスターを? 仲間に?


考える間もなく、背後から低い唸り声が聞こえた。

「グルルル……!」


振り向くと、三匹のスライムが、キースを取り囲むように迫ってきた。

「やっぱり、これか……!」

最弱ランクの彼には、この程度のモンスターでさえも侮れない。剣を構えるが、力不足は否めなかった。

「くっ……!」


その瞬間、キースは思い切ってスキルを発動した。


【まねきねこ、発動】

【対象:猫型モンスター、交渉成功】


目の前の小さな猫型モンスターが、にっこりと笑うような表情を見せ、しなやかに体を伸ばした。

そして驚くべきことに、スライムたちがその猫を中心に円を描くように動き始めた。

「な、なに……!?」


猫型モンスター――ミィと名付けたその存在は、ただ座っているだけなのに、スライムたちを引き寄せ、制御していたのだ。

キースはその隙に、スライムたちを安全な場所へ誘導。攻撃は受けずに済んだ。

「まさか……俺、勝った?」

彼は思わず笑った。最底辺探索者が、モンスターを味方につけて初めて勝利を得た瞬間だった。


その後、キースはミィとともにダンジョンの浅層を慎重に進む。

「……なるほどな、これが俺の武器か。」

剣や力だけではない、知恵とスキルで戦う新たな冒険が、今、始まったのだ。


ダンジョンの奥から、不気味な風が吹き抜ける。冷たい空気に、かすかに遠くでうなるような音が響く。

「……やれやれ、最底辺の俺でも、ここから始められるのか。」

キースは小さく拳を握った。

仲間は、まだ小さなミィだけ。しかし、これからの冒険の道は、この小さな猫型モンスターと共に切り拓く――。


最弱の冒険者と、一匹のモンスター。

深層に続く無数の危険と謎を前に、二人(?)の冒険は、静かに、しかし確実に歩み始めた。

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