マシだった気がする
キンポー
第1話
第1話
深夜のコンビニは、だいたい同じ顔をしている。
入口の自動ドアが、少し遅れて開く。
その遅れが、今日は気になった。
理由は分かっている。
分かった気になっているだけかもしれない。
こういうときは、たいてい後者だ。
俺は棚の前で立ち止まる。
弁当。
サンドイッチ。
どれも似た色をしている。
犯人が同じような服に着替えて戻ってくる、あの手口に似ている。
似ているだけだ。
前回は、揚げ物を選んだ。
重かった。
今日は軽くいく。
そう決める。
判断は、遅くない。
少なくとも自分ではそう思う。
特別。
新商品。
期間限定。
この三語が並ぶと、だいたい外れる。
経験則だ。
それでも手に取る。
実行はする。
レジに向かう途中、床が少しだけ滑る。
ワックスの匂い。
なるほど。
清掃の直後か。
つまり、急ぐ必要はない。
そういう推理が頭に浮かぶ。
特に何かの役に立つ訳ではない。
温めますか、と聞かれる。
お願いします、と答える。
一拍遅れる。
この一拍が、今日のすべてを決めた気がする。
袋を受け取る。
温かい。
いや、思ったより温かくない。
中途半端だ。
前回の揚げ物のほうが、まだ潔かった。
店内を見回す。
客は俺だけ。
店員は無言。
防犯カメラが瞬きをしているように見える。
見えるだけだ。
箸をもらい忘れたことに気づく。
おにぎりだから問題ない。
そういう理屈を立てる。
理屈はいつも後付けだ。
外に出る。
夜はまだ深い。
街灯の下で袋を開ける。
海苔がしっとりしている。
温めたせいだ。
分かっていた。
分かっていてやった。
一口かじる。
味は、悪くない。
期待していなかったからだろう。
期待しなければ、裏切られない。
そういう推理も成り立つ。
証明はしない。
背後でドアが開く音。
誰かが出てきた気配。
振り返らない。
今は関係ない。
重要な場面ほど、些細なことで中断される。
その法則を、今日は採用しない。
噛み終わる前に、具が落ちる。
少しだけ。
拾わない。
前回よりマシだ。
前回は全部落とした。
なるほど。
今回はそう来るか。
俺は袋を畳む。
推理は、ここまでで十分だ。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
(次は温めない)
コンビニの看板が、無言で明滅していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます