第5話 「はい!もうビーストは任せてくださいよ!」
焚き火の炎は夜の闇にはじけて煙が星へと帰っていた。まだ森の中は寒い。早く任務を終わらせて駆除隊の拠点に帰りたいなぁ・・・。アナクリシクティスは無意識のうちにぼやいていてしまった。
駆除隊は原則として「ヒト」のみで構成されるパークの対セルリアン戦闘を受け持つ組織である。しかし、セルリアンに対し「ヒト」が非力なのは明らかであり、結局ヒトのみではまともに太刀打ちできないということなったが、アニマルガールは探検隊という独自の対セルリアン組織を擁しているため、駆除隊はアニマルガールに「ヒト」のマネをさせることで隊に組み込ませたのである。
彼女もその一人であった。
今の彼女は、尻尾も耳も体に収納し、駆除隊の制服を着用していたので、外見は「ヒト」以外の何者でもなかった。アニマルガールの中でも、特に鼻の効くものだけが、彼女に少し違和感を感じるだけであった。
森の奥から足音が聞こえる。・・・ターゲットが起きたの?わたしは焚き火を一旦放置して森の奥の方に足を進めっていった。
森の奥にいる物体は取り敢えずターゲットではなかった。というかあのシルエットは・・・
「先輩!!どうしたんですか?」
「差し入れ渡しにね。」
ティラコスミルス先輩。駆除隊に一番早く入隊したアニマルガールであり、今やジャパリパークスタッフとしてかなり大きい権限を持っている「ヒト」である。
「で?差し入れってなんですか?高級なやつですか?」
「大したのではないけど。もうレーションには飽きたでしょ?」
袋には市販の缶スープがゴロゴロ入っていた。しかも本土の人工肉じゃないやつだ。
「わぁ!ありがとうございます!お湯沸かしますね!」
わたしはミネストローネ、先輩はクラムチャウダーを選び、水を張った鍋に缶をぶち込む。会話も灰の様に曇りない星空に飲まれて行った。
「で、ビーストとは仲良くやってるの?」
「はい!最初は、言葉が通じないし、怖い印象があったんですけど・・・付き合っていくうちに、まぁ・・・自由すぎて困る所はあるんですけど、ちゃんと通じ会えるって事がわかったんです!」
「なら良かった。あなたに任せて正解だったわね。」
「はい!もうビーストは任せてくださいよ!」
「所で、そのビーストは・・・?」
わたしは照れくさそうに答えた
「すみません・・・テントを占領されちゃって・・・最近はわたしが野宿です。」
「それじゃ、まるであなたがビーストじゃない!」
「はい・・・」
先輩は怒ったような、呆れたような顔をしていた。そりゃそーだ。
「・・・後でテント、もう一枚頼めます?」
「考えとく。」
アラ・・・こりゃ厳しいかな。
鍋の水はアブクを慌ただしく底から吹き出して、缶はそれに踊らされていた。先輩は手早く缶を引き上げると、触ろうとする私の手を制し、やけどするわよ?と言った。
「あなたはいつも、そういう所が短絡的なのよ。」
「へへっ・・・先輩がしっかりしてるおかげです!」
「もうっ・・・」
タオルで缶を包み、フォークで器用に蓋を外す。わたしは上手くいかず、結局先輩が開けてくれた。
「わぁ!ありがとうございます!上手ですね!」
「こんなの褒められたって・・・」
スープから立ち込める湯気が二人の喋りたい事を持っていってしまったので、焚き火の音だけが辺りに響いた。
「そういえばなのだけど、ビースト殺しって聞いた事あるかしら?」
「ありますよ。でも、あれは迷信ですよ。」
先輩はスープを覗いたまま答えた。
「ジャパリパーク特務第3隊。表向きはサンドスターが与える環境変化について調査する機関よ。」
「裏向きは違う、と。」
先輩は資料を寄越してきた。履歴書?フレンズの証明写真となにかが書かれた紙だ。
「シマフクロウ、ウミガラス。その2人は本土のデータには存在していないわ。」
「なるほど。わたし達みたいに意図的に抹消されている。と」
「そしてシマフクロウがビーストとおぼしきものを殺している映像が確認されたわ。すぐに消されたけど。」
「なるほど。この2人には注意しないとですね!」
「あと・・・」
焚き火に照らされた顔が翳っているように見えた。
「どうしたのですか?」
「なんでもないわ。とにかく任務を全うしなさい。」
「はい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます