楽園の徒花

みみのり6年生

第1話 「まだ起きてたの?」

「ビースト」


フレンズのなり損ない。フレンズの体を持ちながらも、獣の心を宿す者。パークの異端であり、ヒトともフレンズとも道を共に歩めぬ者。開園したパークの存在を揺るがしかねない悪。セルリアンよりも厄介なもの


私は日記に書いていて、書きすぎかな?と苦笑しました。どの文章も真実ではありますが、この書きようではきっとビーストも「そこまで悪しざまに罵る必要はないでしょう!!!」と怒ることでしょう。まぁ、この文章に怒れないからビーストなのでしょうが。


ジャパリパーク特務第3隊。対外的にはサンドスターが環境に与える影響を調査する部隊となっています。実態はフレンズのなり損ないを一般のパークスタッフやフレンズ、そしてなによりゲストに見つかる前に保護・・・いや日記にくらい真実を書いても飼い主さんは許してくれるでしょうから書きましょう。殺して、いなかったことにしてしまうのが、仕事なのです。



私は日記帳を閉じました。飼い主は私に「眠れないときは日記帳を書くといいよ」と仰っていたのでそのとおりにしてみましたが、別に書いてるうちに眠くなる、なんて効果はないようです。


それにしても・・・私が夜行性であるという点を加味しても、昼間あれだけ激しく動いたのに、これっぽっちも眠くならないのは不思議なものです。普段だったらもうぐっすりでしょうに。


私は気づくとベッドから離れ、一階下にあるキッチンに向かっていました。


「まだ起きてたの?」

階段を降りると、すぐリビングルームに直結しているのですが、そこに飼い主はいました。


「貴方こそ、ヒトは昼行性の癖に起きてるのです。」

「ヒトはねぇ・・・大人になると夜行性になるんだよォ。」

「意味がわからんのです。」


わたしはキッチンに向かっていきました。飼い主はリビングの明かりもつけずにテレビで映画を見ていました。それは所謂スプラッタ映画というやつで、丁度血飛沫が飛んでるシーンが流れていました。


キッチンで口の中入れた水が、ふと血であるような感じがして、私は口から吐き出しました。無色透明な水が、歯の隙間を滴っていくのが見えました。


「ビーストだってこんな酷い死に方はしてないのです。」

「スプラッタ映画は残酷に死に方を見せる映画だからねぇ。」



「なんで普段から死体をいっぱい見てるのに人が死ぬ映画を見てるのですか?」

「逆だよ。逆、いつも見てるから、見てないとまた堪えるようになる気がするの。」

「あ〜。それは何となくわかるかもなのです。」


飼い主は急にテレビジョンの電源を消しました。

「さ、私もねるから!良い子は寝た寝た!」

「ビーストを殺して、私は良い子なのですか」


飼い主は何も言いませんでした。ただ静かに頷いて、あぐらを組み換えました。


「ねぇ・・・もしかして眠れないの?」

「そうなのです。今日の飼い主は妙に鋭いのです。」


「へへっ、それはありがと。」


頭の中にはビーストが最後に発した言葉が反芻していました。恐らく私が殺す一瞬前にフレンズとして覚醒したのでしょう。


「膝枕、しよっか?」

「別に・・・慰めのつもりだったら要らないのです。」

「そっか。残念。」


「・・・でも、そっちがどうしてもって言うなら・・・してあげないこともないのです。」

「ふふっ・・・じゃあ膝枕、させてもらうね。」


私は頭を飼い主に委ねました。飼い主は一通り頭を撫でた後、私の羽をいじくり出しました。


「あんまり弄られると、飛べなくなるのです。」

「え!じゃあ辞める。」

「嘘なのです。そうやって簡単に騙されるから、こんな仕事を押し付けられてしまうのです。」



「でも、シマフクロウと会えた。」



「私は、貴方なんかと会いたくなかったのです。」

「あら悲しい。」

「思ってもないくせに」


窓の外の月はまだ高い所にあるのでしょう。そして日の目を見れるフレンズを照らしていてくれるのでしょう。少なくとも、月も太陽も私の事はてらしてくれないのです。


「私もドールみたいな。探検隊に入りたかったのです。」

「この仕事は、シマフクロウにしかできないよ?」

「そんなことは・・・・わかってるのです。」



・・・

「ちょっと、パジャマ濡らさないでよ。」

「別に泣いてるわけじゃないのです。」


寝っちゃたか。昼の戦闘で見せた厳しくも凛々しい顔と同じフレンズとは思えない。とっても不安げで儚くて美しい顔。まるで、童話の人魚姫みたい。


「おやすみ。」


私は寝ているシマフクロウに毛布をかけてあげた。ごめんね。こんな地獄にまきこんじゃって。



「でも、堕ちる時は一緒だから。」


だから、付き合ってもらうよ。


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