『ローマ神殿をクビになった「供物係」の俺、実は唯一神の代弁者だった〜今さら戻ってこいと言われても、皇帝陛下に仕えているのでもう遅いです〜』

@mai5000jp

『ローマ神殿をクビになった「供物係」の俺、実は唯一神の代弁者だった〜今さら戻ってこいと言われても、皇帝陛下に仕えているのでもう遅いです〜』

輝ける筆(ルクス・カラムス)の歌

大理石の床は 氷のように冷たく 見上げる神殿は 傲慢にそびえ立つ 捧げられた羊の 生臭い匂いのなか 俺は 「無能」の烙印を 胸に刻まれた


差し出された神託は のたうつ黒い虫の群れ 三行を過ぎれば 文字は闇に溶け 意味をなさぬ模様が 俺の視界を塞ぐ 「役立たずめ」と 嘲笑が降り注ぐ


愛した女(ひと)は 背を向け 信じた友は 泥を投げた 俺の脳(せかい)が 壊れているからだと 誰もが 俺を 奈落へ突き落とした


けれど――。


闇のなかに 一筋の白が差す 震える指で 薄紫の魔法をなぞる するとどうだ 蠢いていた文字たちが 歌を歌い始めた


それは 古い神々の 虚飾の叫びではなく たった一人の 真実の主が放つ 慈悲の響き 俺の瞳は 模様の奥にある  世界の「解釈(こたえ)」を 見つけ出した


「今さら 戻れと言うのか」


黄金の冠を戴く 皇帝の傍らで 俺は かつての支配者たちを見下ろす 文字を読めぬと 俺を捨てた者たちよ お前たちが縋るその紙片は もうただの灰だ


三行の白 三行の薄紫 そして一行の光 俺の脳は 緻密に作られた 勝利の楽器 口角を上げろ 胸を張れ 俺の言葉が 帝国の運命を いま書き換える


もう、遅い。 俺はもう お前たちの知らない 色鮮やかな明日(とき)を生きている。


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