4.2 客寄せサンタ

「おやじ、今年も客寄せサンタが沢山いるな!」

「おやじ、見てくれよ。ミニスカサンタがいるぜ。ミニスカうぇーい!」

「「ミニスカおっしゃうぇーい!」」


 クリスマスまで、あと一週間ほど。

 特殊装甲機動車ソリッドトイ甲型――通称・ソリの内部から眺める町には、例年通り、ビラなどを配るサンタクロースが大量増殖していた。

 ソリにはエイトオーの他、BARチャーリーにいた、揃いのツナギを着た若い男たちも同乗している。彼らは謂わばエイトオーの私兵であり、サンタ業界ではトナカイフォースと呼ばれている者たちで、任務のときには当然のように同行するのだ。

 そうして町の様子を観察しているのだが、トナカイたちは行き交う人々と同じように少々浮かれ気味のようである。

 しかし、そんな中でも、トナカイたちの長男的ポジションにいる長髪のトナ太郎は、冷静に外の様子を観察していた。


「今年のサンタ、なんか数が多くないすか?」

「……確かにそうだな。事件に関係あるかも知れん。気に留めておけ」

「ういっす」


 そんな会話をしつつ、予告状が送りつけられた家庭などにも事情を聞いてみたのだが、調査を始めてから三日経っても、犯人に結びつきそうな手掛かりは、何も得られなかった。


「ちくしょう! 子どもをプレゼントで釣って夜更かしさせるなんて、ふざけたことをしやがって!」


 エイトオーのいらだつ声が響くここは、仕事を終えた男たちが集う場所、BARチャーリー。

 今宵もエイトオーとトナカイたち以外に客はいない。


「夜はぐっすりおねむで、幸せな夢を見るのが子どもってもんだろうがよお!」


 珍しくBARチャーリーで荒れるエイトオーに、けれどマスターは冷静だった


「……我らの女帝より、あなたにメッセージをお預かりしています。ここでお聞きになりますか?」

「ああ? なんだってこんなときに……うむ……頼む」


 女帝。それは、ラヴクラフト財団の創設者にして、世界最大のおもちゃメーカー七天堂グループの総帥である、アトランティエ・ラヴクラフトを指し示す隠語である。

 風の噂では三〇歳から年を取っていないだの、大昔から生きている魔女だのと言われているが、幹部たちの前にすら滅多に姿を現さないのだから、末端のエイトオーやマスターが、その真偽を知る由もない。

 しかし、サンタたちを束ねる存在であることに変わりは無く、そこからのメッセージなどと言われてしまえば、選択肢などないも同然だった。


「〝サンタ〟。以上です」

「……それだけか? しっかし、このタイミングでそれってことは、やっぱりそういうことなのか?」


 今までの荒れた様子はすっかり影を潜め、エイトオーがヒゲをなぞりながら独り言をつぶやき始めると、マスターはグラスを磨きながら話しかける。


「何か、進みそうですか?」

しゃくだが、女帝のお陰でな」

「それは良かった」


 BARチャーリーの店内に、トナカイたちの騒ぐ声が響き始めた。



  🎅  🎅  🎅



 翌朝、エイトオーとトナカイたちは、ソリの車内にいた。

 といっても、ここは路上ではない。

 財団の技術の粋を集めたこのソリは、ドライヴ走行モード、突撃モード、そして現在のフライト飛行モードの三つの変形機構を備えているのだ。さらには、いずれのモードでも光学ステルス迷彩を発動可能というハイスペックぶり。子どもを犯罪から守るための移動要塞と言っても過言ではない。

 もう一つ特筆すべき機能があるのだが、それはエイトオーたちがソリッドトイ甲型をソリとあだ名する由縁となっているものだった。


「ソリ、ヘヴンズコール内にいるサンタクロース衣装のやつをすべて抽出してくれ」

『了解しました……抽出完了。映像を確認しますか?』

「いや、まだいい。今度はその結果を元に全員をトレース。明らかに一般人と違う行動をとっているやつを抜き出してくれ。それから、ヘヴンズコールのニューストピックやSNSで、例の予告状前後から急激に増えたワードも抽出してほしい」

『了解しました。急増したワードの抽出結果は先にお伝えしますか?』

「まとめてでいい」


 薄暗い車内で、エイトオーとソリの機械音声の会話が一段落すると、アフロ頭のロクが、エイトオーに話しかける。


「おやじは、いつもより多いサンタが怪しいと思ってるのか?」

「その通りだ」

「ネットの情報を漁るのは、なんか意味があるのか?」

「分からんが、犯罪者が大規模に動いているのなら、どこかであとが残るはずだ。調べてみる価値はある。だが、人の目も大事だ。今日も頼むぞ」

「……分かった」


 ヘヴンズコールの上空から、エイトオーとトナカイたちの監視は続く。

 もちろん、肉眼では限界がある。

 ソリにあれこれ指示して、モニターに拡大した映像を映してもらうのだ。

 そうして皆の目がしょぼしょぼする太陽が沈む時刻、ソリから早くも抽出結果が報告された。

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