鉄の剣が高くて買えない。
草
鉄の剣が高すぎる。
鉄の剣が買えない。
一本16万する。鉄の剣だぞ。16万といえば
つまり回復薬は100で買える。ぜんぜん安くない。
ちなみに、この町の周辺で
100の回復薬を使って50のモンスターを狩る。破産したいのか? 初心者が陥りやすい罠だ。ドップリはまってしまった。助けて。
この負のループから抜け出すためには鉄の剣がいる。 鉄の剣で攻撃すれば50の収入にしかならないモンスターも一撃で簡単に倒せる。これは凄い。安全だ。欲しい。100回遭遇すれば5千は儲かる。100回遭遇した頃には陽が暮れているが。途方にも暮れる。
それが16万。
呻った。
財布の中を見る。入ってるのは3000分の硬貨だ。全財産。宿は1回泊まるのに1万5000取られる。つまり野宿だ。宿に泊まらなければ夜は襲われる。
ちょうど今この店が襲われた。武器屋だ。犯人は隣で凶器を出してる。恐すぎ。え、鉄の剣が欲しいようだ。
それを出せと脅してる。でもその手に持っている凶器、たしか鉄の剣よりも遥かに高価な武器のような……。
ところで店から欲しい商品を盗むことはできる。その時の行程は大体こんな感じだ。
客を装って店員に近づく。凶器を突きつけて欲しいものを出せと脅す。店員も武器を構える。だいたいドコの店員も武器は装備してるからカウンター越しで戦闘になる。
その間に通報を受けた
それまでに犯罪者が店員に勝てば、窃盗成立。騎士が間に合えば騎士と店員の挟み撃ちというワケ。
全部、目の前で起こった。
勝敗は、騎士がホクホク顔で出ていったから襲撃失敗である。首根っこ捕まれて引きずられて行った。カワイイ。
襲撃犯を撃退した店員は武器を握ったままこっちまで睨んでいる。とばっちりにもほどがある。鉄の剣マケて下さい。ダメだった。
頭が目覚めた。
カネを稼ごう。金を稼ぐにはモンスターを倒すことだ。モンスターを倒せば素材が手に入る。それをお金に換える二度手間をする。モンスターを倒したらすぐにお金が手に入ればいいのに。しかし世の中、それほど簡単ではない。
いま装備している「木の枝」と「普段着」でコツコツとモンスターを倒していくしかないのだ。
あ、鉄の剣が一本買われた。ドチクショウガ。
みんな16万なんて金、どうやって持ってるんだ? 普通に働いて得てるに決まってるだろ。でも労働して働くよりもモンスターを倒して楽に収入を稼ぎたい。だが楽ではなかった。
ヤケクソになって町を飛び出した。すぐにモンスターと出くわした。
一日かけて一体倒す。
傷だらけになりながらも、それを30日繰り返した。いや一ヶ月と言ったほうがいいのかもしれない。
ヨボヨボになりながら再び武器屋に入った。16万は貯まらなかった。
買えない鉄の剣を眺めるだけで精神を癒やした。体力は回復しない。
町の外へとふたたび繰り出した。同じモンスターと戦った。一日中戦った。
それを一年、続けた。
モンスターと親友になった。
鉄の剣が買えないことを相談した。
モンスターは町の方角を見て、おもむろに歩いて行った。鉄の剣を持ってきやがった。
急いで戻してこいと尻をたたいたが反撃の一撃で吹っ飛ばされた。
鉄の剣は戻してくれた。
涙目になりながら、普通に買いたいとモンスターに涙ながらに打ち明けた。
モンスターはだったら戦えと身構えた。
それに応えて、こっちも木の枝を握って構えた。これで130本目。心細い。
対戦が始まって対戦が終わった。
バッチリ折れた。心も折れた。ところで心が折れたって言葉はどこで広まったんだ? 子供の頃に耳にした覚えはないんだが。
そんな事より、白いバッテンの絆創膏いっぱいのモンスターと草原に寝転んだ。今日もいい勝負だった。手元には対決で手に入った50が転がっている。素材で手に入るんじゃなかったのか? 今回は50がモンスターの落とす素材だ。そんなのアリ?
草原で寝転びながらモンスターが、そんなに鉄の剣が欲しいのかと訊ねてきた。
頷いて欲しいと言った。一撃で倒したい。
モンスターは自分自身を指さした。オレを?
お前を。
友情は壊れた。
二回戦目が始まった。132本目の木の枝が折れた。
傷だらけになって双方が膝をついた。
草原にまた一人と一体で寝転ぶ。
友情が復活した。
財布にはまた50が増えた。
それで買えそうか?
買えない。
ところでモンスターはどうやってカネを持ってるんだ?
モンスターは指を差した。指された先には数多の自称勇者たちが敗れた時にボロボロにされた初心者の装備が転がっている。
アレを売った。
マジかよ。
そしてモンスターは勇者を倒す冒険がしたいと言いだした。
その仲間を集めている、と。
こっちは勇者の側なんだが?
裏切れ。
できるか。
モンスターは勇者を倒す冒険がしたくて。
こっちは魔王を倒す冒険がしたい。……いや別に魔王は倒したいわけではないが、冒険はしたい。
鉄の剣も買えないヤツが魔王を倒せるのか?
モンスターが疑いの眼差しで挑発してきたので、オレは憤慨して町に戻って武器屋の軒先を潜った。
一本、二千で買った木の剣を装備した冒険が始まる。
鉄の剣が高くて買えない。 草 @vever
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