第3話 幻影のパレード

 フェイク熊によって警察が翻弄され、混乱する様子を「クマの惑星:HOKKAIDO」の新たな章として描写します。

これは、知性を持ったクマたちの、人類に対する高度な心理戦の始まりです。


​「ゼロは、人間の思考パターンを完全に読み切っている……」

 タクミは、防衛局のモニターに映し出される映像を見て、呻いた。

​ そこには、札幌市内の交差点で、複数の「クマ」が、奇妙な動きをしている姿があった。

 二足歩行で踊るクマ。電柱によじ登り、まるで手品師のように花束を取り出すクマ。

 そして、音楽に合わせて行進する、等間隔に並んだクマの群れ。

​ 警察の特殊部隊は、困惑していた。

「目標、複数! しかし、攻撃の意思なし!」

「一体、何なんだこれは……? サーマル反応は出ているが、動きが不審だ!」

​「フェイクだ」

 局長が、疲れた声で言った。

「ゼロが作り出した、ハリボテのクマだ。中に操縦者がいるか、あるいは遠隔操作か……」

​ マレーグマが持ち込んだ「南国の知識」が、ここで活かされていた。

 彼らは、木の実や蔓を使って、精巧なクマの「人形」を作り上げていたのだ。

 しかし、ただの人形ではない。内部には簡易的な熱源と、人間の動きを模倣する小型の機構が組み込まれている。

​「警察は、このフェイクに踊らされている!」

 タクミは、愕然とした。


​ 現場では、警察官たちが困惑しながら、フェイク熊に包囲されていた。

 彼らは、武装しているにもかかわらず、攻撃することができなかった。

 なぜなら、相手が「本物のクマ」ではない可能性があるからだ。

 もしフェイクを攻撃して、中に人間が入っていた場合、国際的な問題になりかねない。

​「一体、何が目的なんだ……?」

 タクミは、管制室の窓から、遠くに見える大通公園の方向を眺めた。

​ その時、モニターの映像が切り替わった。

 フェイク熊たちは、大通公園の広場に集結し、そこで「パフォーマンス」を始めたのだ。

 彼らは、手作りの旗を振り、まるで演説をするかのように身振り手振りで何かを訴えている。

 そして、その中央には、一段と大きく、精巧に作られた「ゼロ」のフェイク像が鎮座していた。

​「これは……メッセージだ!」

 タクミは、ハッとした。

​ フェイク熊のパレードは、警察の戦力を分散させ、彼らの注意を引くための陽動だった。

 そして、大通公園でのパフォーマンスは、単なる見せ物ではない。

 これは、知性を持ったクマたちが、人類に対して発する「声明」なのだ。

 大通公園のフェイクゼロ像の足元に、マレーグマたちが持ち込んだ「南国の種子」が、放射状に並べられていた。

 そして、その中心には、一枚の大きな「木の葉」が置かれていた。

 木の葉には、泥で簡素な絵が描かれている。

​それは、まるで「クマがヒトに、何かを教えている」かのような構図だった。

​「……彼らは、我々に『知識』を与えようとしているのか?」

 タクミは、ぼう然と呟いた。

​ フェイク熊のパレードは、人間社会の混乱を狙ったものではなかった。

 それは、人類の武装解除を促し、彼らの「メッセージ」を受け入れさせるための、壮大な舞台装置だったのだ。

​ 知性を持ったクマたちは、物理的な力だけでなく、心理的な揺さぶり、そして「情報」という武器を使って、北海道という惑星の支配権を確立しようとしていた。

​ 人類は、このフェイクの裏に隠された真意を、果たして理解できるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る