第4話 忌み子は魔術を放つ
「これが、スタンピード――」
宙に浮かび、広大な魔の森を俯瞰する。
砂埃を巻き上げながら、森を横断する魔物の大群に、思わず息を呑む。
アマンダから話は聞いていたし、ゲームの緊急クエストで何度も見てきた――けれど、実際に目の前で見る迫力は、想像を遥かに超えていた。
「……こんなにも恐ろしいなんて」
魔物の咆哮は、ゲームの中でも聞いていた。
だが、身も毛もよだつような、圧倒的な殺気を感じたことは、前世でも今世でも一度もない。
現実では騎士や冒険者が食い止め、ゲームの中ではプレイヤーが立ち向かう――それほどの脅威なのだ。
「確か、祖国では皇国精霊術師たちが、得意の精霊術で食い止めていたのよね」
祖国では『精霊術こそ、魔物の最大の弱点』とされ、襲いかかる災厄を追い払っていた。
ゲームでは、消費魔力が大きい割に攻撃力が魔術より低く、効率が悪いと感じていたけれど……
この世界ではどうなっているのか、まだ分からない。
ふと、視界の端に目をやると、街の外で魔物を迎え撃つための防衛ラインを築きつつ、魔の森に討伐に向かおうとする騎士と冒険者たちの姿があった。
「どうやら、街の方は冒険者と騎士に任せても大丈夫そうね」
この国でトップクラスの軍事力を誇る騎士団。
そして、未知なる素材を求めてこの街にいる凄腕の冒険者たち。
万が一、私が魔術で打ち漏らしがあったとしても、彼らが残りを討伐してくれるに違いない。
その時、騎士たちの指揮を執っていた金髪碧眼の見目麗しい男性が一瞬、宙に浮かんでいる私の方を見た。
うわっ、乙女ゲーに出てきそうなイケメンじゃん。
あれ絶対、この国の王子様だよね。平民だから見たことないけど。
でも、あれっ? 認識阻害魔術をかけているのに、私の姿が見えている……?
「お前たち、行くぞ!」
「「「「「おう!!」」」」
一瞬笑みを浮かべたその人は、すぐさま笑みを潜めると編成された討伐隊を引き連れて魔の森に入る。
「さて、私も仕事をしないとね」
『魔の森の守り人』――その二つ名に恥じない働きをしないと。
討伐隊が魔の森に入ったのを見届けた私は、小さく息を整えると目を閉じる。
「一瞬で片付けてあげるんだから」
杖をしっかり握り、魔力を集中させる。
魔術の基本は、イメージすること。どんな魔術なのか、どのような効果を生むのか――頭の中で完全に描くこと。
それは、ゲームや祖国では教えてくれなかった、この国にきて初めて知ったこと。
「ゲームでも今世でも飽きるくらい魔術を撃っているし、今世では独学でちゃんと勉強しているから、イメージは完璧よ!」
そっと目を開けた私は、魔物の大群を見据え、杖を掲げる。
「街との距離は問題なし。討伐隊がいる場所も……うん、これなら大丈夫」
この森には魔物だけでなく、たくさんの動植物が生きている。
だから、火や風の魔術は極力使えない。
大きく深呼吸をし、杖の先端に大きな水色の陣を描く。
「〈アイスレイン〉!!」
全力で込めた魔力が陣から放たれ、無数の氷の矢が一直線に魔物の群れを襲う。
魔物達は絶叫し、次々と氷漬けになっていく。
「な、なんだ……!?」
「空から氷の矢が降ってきたぞ!」
「しかも、魔物達を次々と凍らせている!」
「これが、『魔の森の守り人』の実力なのか!?」
討伐隊の声は聞こえるが、私は気にしない。
私のやるべきことは、目の前の魔物を食い止めることだけ。
「はあああああっ!!」
魔力切れ寸前まで、無我夢中で氷の矢を放つ。
瞬く間に、スタンピードは収束し、森に静けさが戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます