第2話 忌み子は自由を満喫する

「はぁぁ~……『宝の森』で生活できるなんて、最高すぎる~!」



 祖国を追放されてから一年。

 前世の記憶を取り戻した私は、一度足を踏み入れたら二度と帰れないと恐れられている『魔の森』――もとい、素材の宝庫である『宝の森』で快適な異世界スローライフを満喫していた。



「まぁ、前世のキャラステータスがそのまま引き継がれていたおかげなのだけどね」



 錬金魔術で仕立てたパンツスタイルの冒険者風の服。

 今日の食料を調達して拠点へ戻った私は、慣れた手つきでステータス画面を開いた。


 前世で使っていたメインジョブは魔術師。

 それも、あらゆる系統の魔術を修めた完全習得型。


 そしてサブジョブは――『探索者』。



「一応、探索魔術はあるけど、クエスト中は常時魔術を使うわけにはいかないから」



 そんな気持ちで選んだジョブが、今となっては神選択だった。


 おかげで、私のスローライフは隙がない。


 家は現地素材と錬金魔術で簡易小屋を建築。

 家具も一人分なら錬金で十分。

 防犯は結界魔術で完璧。

 食材は探索者スキルを使って森で調達し、魔術で加工・保存。

 料理はアマンダに教えてもらったから問題なし。


 お風呂だって魔術で即席。

 日用品も素材さえあれば、錬金であっという間。



「うん、控えめに言って最高よね!」



 チート能力、最高!



「それに比べて、祖国じゃ『魔術』は忌み嫌われていたよね」



 精霊信仰が支配するあの国では、魔術は『魔物の使う穢れた技術』とされ、存在そのものが否定されていた。


 アマンダの話では、魔術は本来どの国でも広く使われている技術なのに、皇帝が公の場で堂々と否定したせいで、ヘルヴェニア皇国は諸外国から距離を置かれているらしい。



「まぁ、当然よね」



 ゲームで重宝されていて、この世界で普及されている技術を否定するなんて、自ら反感を買っているとしか思えないから。



「さて、そろそろ森の外にも出てみようかな」



 『魔の森』と恐れられているだけあって、この一年、人と一度も遭遇していない。



「アマンダも『外の世界を見なさい』って言っていたし、この生活にも慣れたしね」



 まず向かうなら、魔術が発達しているあの国。

 ゲームではよく行っていたけど……もしかしたら、ゲームで実装されていない新しい魔術体系が存在するかもしれない。


 魔術師としては、是非とも行ってみたい!



「よし、それじゃあ早速行ってみよう! それと、ついでに冒険者登録して納品もしてみよう!」



 この森で生活できるとはいえ、手元にお金は必要。


 隣国出身のアマンダのおかげで、この国についての知識もある。

 それに――善は急げよね!



 錬金魔術で作った旅人風のマントを羽織って深くフードを被り、認識阻害魔術で姿を消した私は、意気揚々と拠点を後にした。


 『魔の森』に住んでいるなんて知られたら、絶対に面倒なことになると思ったから。


 『まずは納品したお金で地図を買わないと』と思いつつ、ステータス画面のマップを頼りに森を抜ける。


 そして、街道を進み、隣国の関所へ辿り着き、いくつかの検査を受けた後、私は無事に入国を許された。


 ――この時の私は、まだ知らなかった。


 まさか、『魔の森』でひっそりと生活していた私の存在が、既にこの国で知られていたなんて。

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