第三章|盛夏
盛夏の朝は早い。
陽が上がる前から空気が熱を含んで、肌にまとわりつく。
公園の土は乾き、草は固くなる。
クローバーは同じ場所にあるのに、三葉の目には、ただの模様のように見え始めた。
三枚。三枚。三枚。
パターン。パターン。パターン。
三葉の指は迷わず動く。
葉の列をなぞり、四枚を探し、見つけ、違和感を拾い、戻す。
……戻す。戻す。戻す。
繰り返すこと数百回。
何のために戻しているのか、途中から分からなくなった。戻すことが癖になっている。戻さな
いと、身体のどこかが落ち着かない。
四つ葉を見つけても、胸は跳ねなくなった。
代わりに、頭の中でチェックリストが鳴る。
大きさ。厚み。角度。色。
どれか一つでもずれていたら、そこに「×」が付く。
奏は、たまに歌みたいに言う。
「今日も見つからないね~」
三葉は「うん」と答える。
答えは、意味より先に口から出る。
会話は薄く空気に浮いて、すぐ消える。
奏が続けて言った。
「もう充分じゃない?」
その言葉は、三葉の耳に入ったのに、意味としては届かなかった。
充分とは何が充分なのか。
見つける数のことか。
続けた日の数のことか。
幸福のことか。
三葉は答えなかった。
答えられないのではなく、答える場所が自分の中に見当たらない。
質問が、どこにも刺さらない。三葉は、クローバーを見た。クローバーは、何も言わない。
ただ三枚で、ただ揃っている。
揃っていることが、妙に怖くなる。
揃っているのに、自分は揃わない。
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